歌うことは、すなわち身体のパフォーマンス!「誰かに届く」表現方法を考えてみよう(講師:亀田増美先生)

連載コラム

 総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?

 そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する一流講師陣の方々をお招きしてお話をうかがう講義連載をやっています。

 「ダンス」「演技」「歌唱」「YouTube」など様々な表現ジャンルがあるなかで、「歌唱」を担当する亀田増美先生には、「課題曲:紅蓮華 真の“歌ウマ”になる歌唱講座」と題して、「歌」に対する基本的な考え方や練習方法を伺っています。

 初回は「魅力的な声とはなにか」、第2回は「音痴を直すには」、第3回は「高い声で歌うには」、第4回は「声変わりを乗り越えるには」、第5回は「表情筋の使い方」をテーマに、それぞれお話を伺ってきました。

 そして第6回となる今回は、歌を歌う際の「パフォーマンス」の取り組み方について伺っていきます!

※記事の内容は公開時点のものです

亀田増美(かめだ・ますみ)イメージ写真

亀田増美(かめだ・ますみ)

大阪府出身。大阪芸術大学演奏学科声楽専攻卒業。

幼少の頃より童謡を歌い始め、小学生からは児童合唱団に所属し、音楽コンクールで入賞、ラジオ番組にも出演。大学在学中にオペラで初舞台を踏む。 卒業後は多数のオペラ作品にソリストとして出演しつつ、童謡や日本歌曲など日本語曲の歌唱でも好評を得、ミュージカルにも進出。後進の指導にも携わり、「テレビ朝日主催 寛仁親王杯 全国子どもの歌コンクール」銀賞受賞者、その他にも多数のミュージカル出演者を出すなど、子どもの歌唱指導に定評がある。 「歌をうたう事は演じること、歌詞はセリフである!」をモットーに、現役を続けながら指導に当たっている。

音楽を聴く環境も変化している!

前回、時代の変化のお話が出ましたが、音楽を聴く環境もかなり変わってきてますよね。昔はレコードで聴いていた音楽が、ウォークマンになり、今ではみんなスマートフォンで音楽を聴いている。

そうなんです。環境も変わりましたし、音楽そのものもデジタル化され、今は皆さん、圧縮されたデータを聴いているんです。

音楽データを圧縮するとき、人間の聴こえない領域の音をカットしているそうですよね。

それもありますね。いま主流のカナル型イヤフォンも、スピーカーから聞くのとはかなり音が違ってくるので、それも問題だと感じています。私がテアトルで担当している歌手たちには「カナル型は聞こえ方が特殊なので普段使いは避けて」と伝えています。

そういう変化もあるんですね。

最近は「聴こえ方」が違ってきているんだと思います。近年はYouTubeやTikTokがきっかけでヒットする曲も増えていますよね。

YOASOBIの「夜に駆ける」や、Adoの「うっせえわ」など、動画サービスからヒットが生まれてますね。

そうですね。音楽を作る側は基本的にパソコンのなかで作り、聴く側はスマホとイヤホンで聴くという、デバイスのなかで全部が完結しちゃうじゃないですか。

ビリー・アイリッシュもAirPodsの範囲内で聴ける音域で作っている、なんていわれてますよね。

そういう環境の変化があるので、音域の幅がキュッとせまくなっているサウンドが流行ってますよね。
最近、デスメタルのアーティストと共演したんですが、彼らの場合は低音域のボリュームが抑えられてしまうとツインドラムの“ドコドコドコドコ“に迫力がなくなってしまう。だから「今は自分たちのやってるような音楽は流行らないのかな」ってぼやいてました。

音域の幅がキュッとせまくなっていると感じているという亀田先生。ちなみに、デスメタルの人とどんな共演をされたのかが気になってしまいましたが、聞けずでした。

たしかに、デスメタルの人からしたら「商売上がったり」みたいな感じですよね。

低音域がカットされた音を聴いている子どもたちにも影響は出てきますよね。
ちゃんと低い声が出てる、男の子っぽい声が出ているねって褒めたら「褒められている意味がわからない」って顔をするんです。

亀田先生が前回おっしゃっていた、「高い声」ばかりもてはやされるという話も、そういった環境の影響もあるのかもしれないですね。

そうかもれませんね。

歌うことは、すなわち身体のパフォーマンス!

今回は最終回なので、これまでの話を総括するような、ただ「歌が上手い」だけではなく、ステージ上で自信を持ってパフォーマンスする歌手になるための極意を教えてほしいです。

これは第1回の話にもつながってくるんですけど、結局のところ、歌もダンスも演技も同じ、すべて身体を使うパフォーマンスなんですよ。なので、スポーツのようにウォーミングアップをするなど、リラックスしてみてください。

はい。

それから大事になってくるのは、「目線」のコントロールなんです。一般の生活ではまったく言われないことなんですが、テレビの現場ではよく「子供は黒目が動いてしまう、それでNGになってしまう」と問題になるんです。

普段の生活ではあまり意識しない「目線」、プロになるためにはこれが重要!

たしかに、普段の生活で黒目の動きまで指摘されることは少ないですね。

芸能の仕事というのは、テレビカメラに映った姿を、お客さまが近距離で見ているという特殊な条件下なので、そのコントロールが必要になってくるんです。

日常であまり意識しないことをコントロールするには、どんな練習をしたらいいのでしょうか?

小さい子の場合は、親御さんに「お子さんの好きなキャラクターのシールやマグネットを、壁でも冷蔵庫でもどこでもいいので貼り付けて、そこにむかってセリフを喋ったり、歌ったりを続けてください」と伝えますね。

つまり、それがカメラの代わりになるんですね。

そうです。これができるようになると、本番で「カメラを見て」というと、ちゃんと見るようになるんですね。練習しないとできないことです。

お風呂の中、トイレで座ってるとき、どんなときでも意識してみてください。「いつでもできる」と思っていたほうが、続くんじゃないかな。前にも言ったけれど、構えて「練習しよう!」みたいな感じだと、意外と続かなかったりするんですね。だから「鏡を見るときに毎日1分だけ練習してみて」と言っていますね。

第5回で話した表情筋を動かす練習も、今はマスクしているから外でやっても周囲にバレないから恥ずかしくないし、普段の行動に取り入れてみるとよいと思います。

歌詞の世界を演じることで、表現に深みが出る

目線や表情、いわゆるフィジカルで大事なことはわかりました。では、マインドは何を大事にしたらいいのでしょうか?

歌というものは、歌詞というセリフにメロディーがついているだけなんですね。つまり、歌詞の中の物語を演じているわけです。逆にいえば役者さんはメロディーのつかない物語を演じている。

ふむふむ。では、セリフみたいに歌詞を表現すればいいってことですか?

簡単にいえばそうですね。でも、「歌詞をセリフのように読んでみて」というと、みんな必ず単に朗読みたいになるんです。

ただ読んでるだけになってしまうんですね。

歌詞の世界の住人になったかのように、感情を込めて歌ってみよう!

そうしたら「あなたは好きな人にもそんな言い方するの?」って聞きます。するとどんどん迫真の演技になってきて、音楽にも起伏が生まれるんです。それがライブの醍醐味ですよね。

情感を込める、ってことですよね。たしかに「歌は情感を込めて歌うものだ」と言われると当たり前な気がしますけど、それをすっかり忘れてしまっていた気がします。

もしかしたら、カラオケ文化に慣れすぎているのかなと思うんですよ。
カラオケって、とりあえず音程を間違えず、機械の点々に沿って歌えればすごい点数が出るでしょう? でもそれって「聴く人の心に残る歌になっているか」という観点での採点ではないですからね。

あるいは「いま人気の歌手、またはボーカロイド曲の『完コピ』を目指そう!」というモチベーションでカラオケの練習をすることも多いですね。

でも、これも第1回で話したことの繰り返しですけど、浜崎あゆみのマネを完璧にできたとしても、浜崎あゆみは2人必要ないですからね。

歌手になりたいのであれば、自分の個性を見つけていくのは、避けて通れない道……。

そう、「そのためにはどうすればいいんですか?」と相談を受けることも多いです。
役者さんの価値って、もらった台本をどんなふうに役作りして演じられるかにかかっているじゃないですか。歌手も同様に、どれだけ歌の世界を演じきれるかなんですよね。

感受性を大事に育てていこう!

では、そのための練習というと……。

まず歌詞をしっかりと読んでほしいんです。3歳から5歳までのクラスでも、まだ字はお勉強中だからご家族に「彼らがわかるように一緒に考えてください」と言っていますね。

小さい子は、歌詞の意味がわからなかったりもしますよね。

だからこそ家族が大事になってきます。親の影響力ってすごいんですよ。例えばお母さんが「アンパンマンはかわいくない」って言ったら、子どもにとっても「アンパンマンはかわいくないもの」になるんです。

う〜む……。たしかに、自分も小さい頃に親が自分の好きなものに対して否定的な発言をしたときに、なんだか嫌いになってしまったことがあります。

だから歌詞を見てお母さん自身が一方的な感想を話すのではなく、お子さんからなにかを引き出すというか、親子で共に意見を出し合ってほしいんですね。
そうすると、子供は字が読めなくても、言葉を知らなくても、自分の中でイメージを持てばそれですべて覚えていけるので、歌詞の覚えも早いんですね。

結局、自分の心の中にしっかりとしたイメージがないと、カラオケを超える歌にはならないということですか。

はい。ご家庭でも、毎日歌だけの練習を30分するのであれば、そのうちの15分間は椅子に座ってじっくりと歌詞を読んでイメージを膨らませてほしいです。「歌わない」歌の練習の大切さを知ってもらいたいですね。

ご家族と一緒に「座ってする」歌の練習が大事なんですね。

親子でじっくりと感受性を高めよう、ということですね。

レッスンでも、子供がわからない言葉があって聞かれたときは「それはお家の人とお話してみて」と伝えています。そのときに親御さんにも、「ご自身のお子さんだから、他人の私なんかよりもよくわかっていらっしゃるはずだから、彼らのわかる範囲の言葉で、どうぞお子さんに説明してください」と、一緒に考えてもらいます。

知らず知らずのうちに、親子で一緒に成長できる面もあるのかも。

こういったことは、オーディションでも大事になってきます。オーディションの課題って全部直前に知らされるんですね。そこで子供の人となりが出るじゃないですか。選ぶ側の監督さんだって面白い子と仕事したいはずなので、普段の練習がものを言うわけです。

なるほど。自分の心の中にあるイメージをしっかりと「誰か」に伝えることが、よいパフォーマンスにつながってくるということですね。
では今回の動画では、これまでの講座のまとめをお願いできればと思います!

亀田先生、6回にわたる連載、ありがとうございました!

歌のイメージって本当に人それぞれです。それをまず認めて、自分の中のイメージ伝えること。そして視線のベクトルをカメラやお客さんに向ける、ということも大事です。
スマホで自分で動画を撮ってみて、自分の姿を確かめてみるのもいいでしょう。最初はできなかったとしても、あせらず、ゆっくりひとつずつやれば大丈夫。練習は嘘をつきませんからね。がんばってください!

 というわけでこれまで6回にわたってお届けしてきた亀田先生の連載は、今回で終わりです。「歌う」というと子どもの頃から何気なくやっている人が多いかもしれませんが、考え方やテクニックを知るだけでも、取り組み方が変わっていきそうですね。

 ぜひ、これまでの6回の連載を参考にしながら、「真の歌ウマ」を目指してみてはいかがでしょうか? それでは、また!

▼これまでに配信してきた亀田先生の連載(全6回)はこちらへ。

文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤