殺陣を演じるために、まず「刀」のことを知ろう!梶武志先生に聞く殺陣の道・はじめの一歩【動画あり】

連載コラム

 総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?

 そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する一流講師陣の方々をお招きしてお話を伺う、講義連載をやっています。

 「ダンス」「演技」「歌唱」「YouTube」など様々なジャンルの講師の方の連載がありますが、なんと「殺陣(たて)」の連載も前回から始まりました!

 教えていただくのは、テアトルアカデミーで殺陣の講師をされている梶武志(かじ・たけし)先生。先日公開した初回では、殺陣の歴史や基本的な考え方について伺いました。

【第1回】『るろうに剣心』『鬼滅の刃』…刀を使ったバトルを再現するには?アクションコーディネイターの梶武志先生に”殺陣”の基本を聞いてみた

 基本となる「5円玉打ち」を動画で実演してもらいましたが、サービス精神旺盛な梶先生に、編集部は圧倒されっぱなしでした。

 そして第2回となる今回は、さらなる殺陣の基礎知識、そして「刀を扱う前にやっておきたいこと」を伺っていきます。果たして、どんなお話になるのでしょうか――?

※記事の内容は公開時点のものです

梶武志(かじ・たけし)イメージ写真

梶武志(かじ・たけし)

各芸能機関にて、演技指導からアクション指導、舞台公演での作・演出まで、様々な方面で活動中。明治座、天王洲 銀河劇場、青山劇場など舞台を中心に、映画『行け!男子高校演劇部』などでもアクションコーディネイターとして参加。プロ・アマ・ジャンルを問わない幅広い指導と振付に好評を得る。最近の作品は、和楽器バンド「月下美人」MVの殺陣指導。

『魔界転生』の殺陣はマジで神回!

殺陣が上手な俳優さんっていうと、どなたが思い浮かびますか?

若山富三郎さん(※1)の殺陣を初めて観たとき、あまりにもすさまじくて、先輩に「あの人の弟子になりたいんですけど、どうしたらいいですか?」と尋ねたくらいです。そのとき、すでに若山さんは亡くなっていたのですが。

※1 若山富三郎:時代劇から任侠映画、現代劇まで多数の作品で活躍した名優。特に殺陣については千葉真一、勝新太郎らから名手と評された。代表作に『子連れ狼』、『ブラック・レイン』、『悪魔の子守唄』など。92年に逝去。なお、勝新太郎は実弟。

な、なるほど。

それまで、殺陣のお手本というか「こうなりたい」というモデルケースが見つからなかったんです。先輩からもそういう人を探せと言われていて、あらゆる殺陣を観ていたんです。
そしたら周囲の役者さんから「農民から将軍までを殺陣で演じられるのは若山さんだけ」と教わって。圧倒的でしたね。

若山富三郎さんの出演作で、とくに印象に残っている作品はありますか?

魔界転生』(※2)です。千葉真一さん演じる柳生十兵衛、そして十兵衛の父・宗矩を演じる若山さんの殺陣は、まさに奇跡、神回ですね。すごすぎて当時何度も観て手を覚えましたもん。

『魔界転生』(1981年)。画像はAmazonより。

※2 『魔界転生』:山田風太郎の伝奇小説を原作とした1981年公開の日本映画。監督は深作欣二。島原の乱で無念の死を遂げた天草四郎時貞が悪魔の力で復活し、細川ガラシャ、宮本武蔵らとともに幕府へ復讐を企てる。それを阻止しようとする柳生十兵衛と悪魔の力に魅入られてしまい天草側についた柳生宗矩による殺陣は梶先生のいうとおり圧巻で、時代劇の歴史に残る名シーン。なお本記事担当ライターも執筆時に観賞したところ、天草役の沢田研二の美しさや千葉真一、真田広之らのアクションに圧倒されました!

「神回」についての熱い想いを笑顔で語ってくれる梶先生。愛ですね。

その「すごさ」って具体的には、どんなところなんでしょう……? 

刀の振りなどの技術的な面は当然すばらしいのですけど、殺陣の動きのなかに、「相手を倒したい、強くなりたい」という一心でやっているキャラクターの感情がものすごく出ている。
究極的な話、技術をちゃんと習得したうえで観る人の心を動かせることが大事になってくるんです。あの人以上の人をいまだに見たことがないし、思わないし、越えられないですね。

若山さんがまさに偉大な先人だったんですね。ちなみに殺陣というジャンルは、今でもどんどん新しい人が出てきて発展していっている世界なんですか? それとも「昔の人はやっぱりすごかった」みたいな世界なのでしょうか?

う〜ん、技術面では全体的に底上げされていると思います。殺陣をやる人も増えたので、その分競争も生まれてその中から飛び抜けた存在になる人もいます。ただ、発展しているかというと……。

殺陣業界の発展について尋ねられ、ちょっと考え込んでしまう梶先生。なかなか複雑なようです。

というと?

そもそも、「発展」とは何を指すことになるんでしょうね。音楽の世界でいうLiSAさんのようなスターが生まれているかというと、ちょっとわからないですし、なにせ殺陣そのものはお芝居の中でのオプションのひとつでしかない。

単純に殺陣そのものが評価される世界ではないと。

だから「この殺陣は売れる」みたいな現象は起こらないですよ。「『刀剣乱舞』のこれが面白かった」「『るろうに剣心』のここがすごかった」みたいに、作品単位の評価はあると思うけれど、「この殺陣がすごい」という評価をされることは少ないんじゃないかな。
だから、教えるときも、「こういう芝居じゃないから、そういう形になってしまうんですよ」と、芝居に対して注文をつける形になりますね。

それは、どういう意味なんでしょう?

例えば、お芝居のなかで達人とされる人が、「うわー!」ってよけるわけがないし、逆に弱いやつが格好良く刃を止めるわけがない。「形」のみで捉えてしまう役者さんも結構いるんです。とくに若い人だと。けれど、「そうじゃないでしょう」という部分にも口出ししています。もっとすごい人は細かな所作まで指摘したりしますね。

忍者修行や小道具づくり……。いろんな修行をやってきた!

ちなみに、武道のように殺陣にも流派ってあるんですか?

はい。たくさんあります。まずは先程も名前を出しましたが千葉真一さん、今の若い子向けにわかりやすく説明すると新田真剣佑のお父さんが立ち上げたジャパンアクションエンタープライズですね。

レジェンド中のレジェンドですね。

僕自身はいろいろな方に習ってきたけれど、すべて網羅しているわけではないですがさまざまな流派があります。ほかにも、テアトルアカデミーでも講師をしていた林邦史朗先生や、『仮面ライダー』と深いかかわりのある大野剣友会、あとはヒーロー番組系の人たちだったりとか、型や構えの名前も流派によってバラバラだったりするんです。

あの人気俳優のお父さんから、特撮番組まで殺陣の流派には色々ある!

梶先生はいろんな流派で学んできたとのことですが、印象に残っているすごい修業の話も聞いてみたいです。

すごい訓練……。そうですね、忍者をやっていた頃の話なんですけど。

忍者!?

今はもう無いですけど、加賀に「時代村」というテーマパークがあって、そこで忍者をしていたんです。
「忍者のように階段を上れ」という修行があって、僕は身体の動きには自信があったんですけど、何回、何十回と上ってもダメ出しをされて、他の人がやるとササササーッ! って上っていくんです。全然レベルが違って、あっさりクビになってしまったんですけど(苦笑)。それ以降、動きの研究や反復練習をするようになりました。

「忍者村の頃は大変だったな〜」と振り返る梶先生。いろいろな修行がある……!

先生にもそんな時代があったんですね。他には「これは役に立ったな」というものはありますか?

小道具の刀を実際に作ってみることですね。ある舞台に出る時に、小道具さんが出演者の刀を作っていたんです。夜中まで作業していたので、手伝ってみたらとても面白かったんです。

おお、工作が面白かったんですね!

そうです。どうすれば刀の刃に見えるのかだとかを考えて作るのが楽しくて。それで凝った刀を作ったら、それが練習中にボキッて折れてしまって。それで小道具さんに泣きながら謝ることがあったんです。

それは自分が作った刀が折れたことがショックで、ですか?

そうです。自分でもこんなに執着するんだと驚きましたね。
工作って楽しいんですよ。今もZoomなどでリモートで刀作り、工作を教えているんです。それが子供たちにとっても、すごく良い経験だったようで、次にレッスンに来たときに作った刀を見せてくれるんですが、僕よりも全然上手になってるんです。「そんなに凝る?」って思うくらい。

刀作りは面白くて楽しくて、そして深い!

刀を使いこなすには、刀自身を知るというのが大事、ということですよね。

小道具の中で刀や刃物を使うのは、圧倒的に特殊なことなんです。
コップや本だったり、お芝居にはいろいろな小道具があります。
だけど、殺陣、刀を使うお芝居だけがすごい特殊になっているのは、刃物という、普段の生活では料理くらいでしか使わない、しかもそれを人に向けて振るなんていう、ありえないことをするからです。だからこそ、実際に刃物を持って工作することでわかることが沢山あります。

へえ〜。何から用意したらいいですか?

まずは、ハサミとカッター、紙やすり、平べったい割り箸や好きなシールを用意してみてください。こちらも家庭にあるものや100円ショップで売っているようなもので作れちゃいます。慣れたら30分くらいでできるようになります。ここで大事なのは、いろいろな道具を使うことなんです。

自宅にある道具でも、君だけの刀が作れちゃう!

刀を作ること自体も面白いけど、それ以上に道具を使うのに慣れよう、ということですね。

そうです。その方が教育的にも大事だと思います。最近は小学1年生くらいだと「カッターは持っちゃいけない」なんて決まりのある学校もあるそうです。僕のレッスンで刃物の話をしても「ポカーン」ってなる子もいるんです。
たしかに、実際に刃物を使うことでケガをしてしまうかもしれません。でもそうなってしまうと、刀を想像できないから、殺陣も上手にならないんです。

なるほど、全部つながってるんですね。

工作でも、きちんとした刀のイメージを持ってないと、ただの棒になってしまいますね。結構面倒な作業なんですよ、「峰」と「刃」の違いもわかってないと、自分に向けて刃を向けることになってしまうし。

「峰」と「刃」が反対の位置になっていたら、それこそ『るろうに剣心』の逆刃刀になってしまう……。

そうですね。「どうなってるかわかる? 自分に刃向けてるんだぜ」って。「刃ってどっちですか?」、「ハーッ?」って。「ダジャレか!」みたいな(笑)。

(無視して)では、そのあたりも含めて前回と同じく、動画で実演をお願いします!

了解です!

梶先生、ありがとうございました! いろいろな道具を使ったり、自分でカスタマイズしたりして、小道具のことをより深く理解していくと、演技にも活きていきそうですね。

はい。こういう刃物を使った工作の経験を、自然と殺陣や演技にひもづけて考えられるようになってもらえたら、ベストですね。

完成品はこちら。最初は難しくてもだんだん上手になってくるはず!

 というわけで今回も、梶先生に「殺陣の基本」をいろいろと伺ってきました。殺陣を演じるときには、ただ単に体の動きだけでなく、道具のことまで理解しておくと、迫力あるシーンが再現できそうですね。

 さて、次回は「かっこよく見える刀の動かし方」について伺っていきます。下っ端に見られないようにするには、どうやらこれも初歩的なコツがあるらしいです。お楽しみに!

文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤