『るろうに剣心』『鬼滅の刃』…刀を使ったバトルを再現するには?アクションコーディネイターの梶武志先生に”殺陣”の基本を聞いてみた【動画あり】

連載コラム

テアトルアカデミーで殺陣の講師をされている梶武志先生

 総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?

 そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する一流講師陣の方々をお招きしてお話を伺う、講義連載をやっています。

 「ダンス」「演技」「歌唱」「YouTube」など様々なジャンルの講師の方の連載がありますが、今回からはなんと「殺陣(たて)」の連載が始まります!

 ご登場いただくのは、テアトルアカデミーで殺陣の講師をされている梶武志(かじ・たけし)先生。

 映画『るろうに剣心』やアニメ『鬼滅の刃』などのヒットもあって、近年ますます注目の高まっている「刀を使った迫力あるバトルシーン」ですが、かっこいいバトルを再現するためには、いろいろな知識や技術が必要になるそうです。

 そこで今回はまず、そういった刀を使ったバトルシーン=「殺陣」の基本について教えてもらいます! 果たして、どんなお話なのでしょうか――?

梶武志(かじ・たけし)イメージ写真

梶武志(かじ・たけし)

各芸能機関にて、演技指導からアクション指導、舞台公演での作・演出まで、様々な方面で活動中。明治座、天王洲 銀河劇場、青山劇場など舞台を中心に、映画『行け!男子高校演劇部』などでもアクションコーディネイターとして参加。プロ・アマ・ジャンルを問わない幅広い指導と振付に好評を得る。最近の作品は、和楽器バンド「月下美人」MVの殺陣指導。

普通に生きてたら出会わなそうな殺陣業界……梶先生が入ったきっかけは?

いきなりですが、普通に生きていたら殺陣ってそうそう出会わないものだと思うんです。そこで、梶先生がどうやって殺陣の道に入られたのか、きっかけを教えていただけないでしょうか。

まあ、そうですよね(笑)。僕はもともと声優志望で、声優養成所に受かったので故郷の岐阜から上京したんです。それで「とにかく何でもいいからまずは現場を踏みたい」と思って劇団のオーディションを受けたら受かってしまって。それで稽古に行ってみたら、殺陣とダンスをやらされたんです。

「実はそもそも殺陣師ではなく声優になりたかった」という、衝撃的な告白から取材はスタートしました。

もちろんセリフもあったんですが、下手くそだったんで全カットされ(笑)、でもスポーツをやっていて人よりも動けると思われたのか、殺陣師さんに「もっとこうやれ、ああやれ」としごかれました。それが殺陣との出会いですね。
だから、もともと殺陣が好きでやり始めたわけじゃないですし、何なら今でも好きかと言われるとちょっと怪しい(笑)。

なんと(笑)。どういう経緯で、殺陣の仕事を続けることになったんですか?

正直なことを言えば、「芸能から離れたくない」という一心でやってきているんです。言わば、芸能の世界で生き残るための術(すべ)だったということです。
でも、自分がやってきたことを見てくださった方々がいろいろと誘ってくれて、何とかやっていけている。
自分は熱しやすく冷めやすいタイプなので、ハマってもすぐ冷めてしまう。殺陣はそれほど好きとも言えないけれど嫌いでもない。だから、続けられているんだろうなと。何においても「続けられる」ということは重要だなと思うんです。

取材の初っ端で大人の真理に到達してしまいましたが(笑)、でも「続けられる」って、たしかに大事なことですよね。

アクションシーンに「殺陣」があることで生まれる効果って?

まず梶先生に伺いたいのが、そもそも、殺陣の歴史ってどういうものなんですか?

基本的には歌舞伎から来ていると言われています。芝居自体は平安時代からあったのですが、歌舞伎が始まったのは戦国時代が終わった安土桃山時代〜江戸時代初期にかけてなので、殺陣もそのあたりからですね。

その時点で、いわゆる本当の武道とはちょっと違う動きを追求しはじめていたんですか?

うーん、というよりも、歌舞伎の演劇的な動きから、どんどんリアルの武道に向かっていったというイメージですね。とある映画作品では本当に人をバーンと叩いていたりします。
それともうひとつはアニメーション化していくという、この2つの流れです。2.5次元舞台が流行っているのはそのアニメーション化の流れのひとつでしょう
ですから現代の殺陣は、歌やダンスとかに比べたら全然まだまだ歴史が浅いと僕は思っています。歌やダンスは、古代からずっとありますからね。

なるほど、意外にも歴史はそこまで長くないと。面白いですね。

「殺陣」というと何やらものすごい伝統がある気がしていましたが、どうやらそうとも限らない……?

今回、梶先生に伺ってみたいのが、殺陣って「アクション」といわれるもののなかでも特殊ですよね。推測なのですが本当に人を斬り殺すための刀の動き」と、「映画なり舞台なりで見栄えが良くなる刀の動き」って、違うところがあるんじゃないかと。そこでまず、殺陣と他のアクションはどう違うのかを伺いたいです。

殺陣は、「人を斬る/殺す」という表現以外に使いようのないものです。そして「人を斬る/殺す」という表現をなぜカッコいいと感じるかというと、前後のお芝居があるからですね。ある人物が、強い悲しみや怒りを感じたことが端的に伝わりやすい。

たとえば「主人公が友達と戦わなければいけない」というお話の場合、その前や戦いのシーンのなかでの主人公の迷いや、斬ってしまったあとの感情に、お客さんも感情移入してボロッと泣いてしまう。
そういった感情の揺れ動きを、前後の演技と組み合わせてアクションで表現できるところが、受け入れられやすいんでしょうかね。

たしかに、アクションシーンの面白さってそこですよね。

ずっと会話劇が続いているだけだと、どこかでゴーッと寝てしまいますからね。そこにちょっとアクションが入ると、一発殴るとかだけでも「おっ」と思ってもらえる。

バトルシーンだって、別にただバトルしているわけではなくて、いろいろな感情の流れの中にそのシーンがあるわけですもんね。

団体によっては殺陣だけの舞台を作っているところもありますけど、やっぱり「エンターテインメントである」「お芝居である」というところを外してしまったら、殺陣を含むアクションはなかなか成り立ちにくいと思います。ただでさえ「本当に」人を斬っているわけではないので。

「下っ端」に見られないようにするには?

なるほど、面白いですね。演技という観点で殺陣を考えたときに、一番大事になってくるのはどういうところなんでしょう? たとえば殺陣が上手な人と下手な人の違いって、どういうところに表れるんですか?

刀の「扱い方」と「見せ方」を知っているかどうかですね。扱い方は基本的に剣術と同じなんですよ。そしてご存じのとおり剣術には流派がいろいろあります。でも殺陣の観点で言うと、本当の剣術だとリアルすぎて地味に見えてしまう。そこで色気を出すとか、刀をどう見せるかが重要になってきます。

たとえば舞台だと、照明をわざと刀に反射させてキラリと光らせるとか、そういうことをやる人もいます。「眠狂四郎」シリーズでの田村正和さんは「正眼(せいがん)の構え」をちょとずらして、それですごい色気を出していたらしいですね。「何をどうしたら刀と一緒に自分がカッコよく見せられるか」をよく知っている人が、「上手」だと言えると思います。
だけど、それは刀としての扱いを理解した上でやらないと、言葉は悪いですけれど中二病みたいになってしまう。

「下っ端」っぽくなってしまうんですね。

刀としての扱いを理解しないと下っ端に見えてしまうという。

下っ端(笑)!
いい表現ですね……。ええ、そのとおりです。「絶対、お前死ぬよね」「やられちゃう人ですよね」という見え方になってしまう。

でも、色気のある見せ方って、実戦で強いわけではないですよね。

はい。実戦での強さとはまったく違います。実戦で強い人っていうのは、まったく何をやるかわからない状態でシュッとやって、相手が死ぬのも一瞬。ただ、それだと面白くならないですよね。だから殺陣にはそういう「色気」も必要なんです。

なるほど……!

殺陣を演じられるようになるための”基本”とは?

梶先生の殺陣のレッスンで、一番コアになる考え方ってどんなことなんでしょうか?

殺陣で一番大事なのは「ルールを守ること」です。
殺陣は人を斬ったり殺したりするためのものではなく、人を楽しませるためのもの。人を楽しませるためには、自分もケガをしちゃいけないですし、一緒に演じてくれる人にもケガをさせてはいけない。
誰かを傷つけてしまったら、その人も自分も一生心に傷を負ってしまいます。その傷はなかなか治らないですからね。

逆に、「絶対に相手を傷つけない」という自信があるのなら、どんな新しい表現に挑戦してもいい。そこから先は自由なんです。だから、まずは「ルールを守ろう」ということを言います。

おもちゃの刀でも木刀でも、使い方によっては人を傷つけてしまうことも……。

人を傷つけないためのやり方って、具体的にはどんなことなんですか?

たとえばサッカーボールを蹴ることに基本があるように、まずは「まっすぐ振る」という技術を身につける。「袈裟斬り」という斜めに斬る動きをするのであれば、ちゃんと斜めに斬れるようにする。その「狙いどころ」をしっかりとイメージすることが大事です。

殺陣を演じるときには、相手側も「こういう太刀筋でくる」という想定があって、そのとおりに動いているわけですよね。

実際の剣術には「相手の裏をかく」ということも必要ですが、殺陣の場合は「こうだますから、だまされたふりをして、それでよけていってね」というふうに作っていかないと、お芝居として成立しないんです。相手も「こう来る」というイメージをわかっていなければギリギリの演技ができません。お互いがそれをわかっていれば、斬る側も刀の動かし方がわかる。
それを理解した上で型や、足の動きを学んでいけば、お芝居として迫力のあるものになります。

なるほど。

あとは、1ミリ単位で刀を止められるようになること。それができれば、誰にもケガをさせずに済みます。そして、しっかりと刀をコントロールできるようになるためには、上半身の筋力も必要だし、足腰の筋力も要ります。なので、それを鍛えていくステップも必要になっていきますね。

とはいえ基本となるのは、さっきも言ったように「まっすぐ振る」という技術です。
僕は「天井に五円玉を吊るして、それをおもちゃの刀で当てる」というのを教えています。まずはやってみましょうかね。

はい、ではお願いします!

ありがとうございました。「狙いどころをはっきりさせる」ということは、すごく強調されていますよね。

ええ、そこは非常に重要ですね。そのコツを掴むためにも、殺陣に興味のある人はぜひ、まずはこの「五円玉打ち」をやってみてほしいと思います!

 というわけで今回は、殺陣講師の梶先生に、またも基礎の基礎から殺陣のことを教えてもらいました。アクションが注目されているいま、殺陣について改めて知ると、とてもおもしろいですね。みなさんもぜひ、動画を参考にしながらチャレンジしてみてください!

 そして次回は「殺陣って剣道みたいに流派はあるの?」「刀の扱い方って?」という話題について聞いていきます。お楽しみに!

文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤