総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?
そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する一流講師陣の方々をお招きしてお話を伺う、講義連載をやっています。
「ダンス」「演技」「歌唱」「YouTube」など様々なジャンルの講師の方の連載がありますが、なんと「殺陣(たて)」の連載もやっています。
教えていただくのは、テアトルアカデミーで殺陣の講師をされている梶武志(かじ・たけし)先生。初回では殺陣の歴史や基本的な考え方、第2回では忍者時代の修行と刀作りのお話を伺いました。
【第1回】『るろうに剣心』『鬼滅の刃』…刀を使ったバトルを再現するには?アクションコーディネイターの梶武志先生に”殺陣”の基本を聞いてみた
【第2回】殺陣を演じるために、まず「刀」のことを知ろう!梶武志先生に聞く殺陣の道・はじめの一歩【動画あり】
そして第3回となる今回は、日常生活に取り入れられる殺陣の練習、そして刀の扱い方について伺っていきます。それでは、いってみましょう!
※記事の内容は公開時点のものです
梶武志(かじ・たけし)
各芸能機関にて、演技指導からアクション指導、舞台公演での作・演出まで、様々な方面で活動中。明治座、天王洲 銀河劇場、青山劇場など舞台を中心に、映画『行け!男子高校演劇部』などでもアクションコーディネイターとして参加。プロ・アマ・ジャンルを問わない幅広い指導と振付に好評を得る。最近の作品は、和楽器バンド「月下美人」MVの殺陣指導。
自宅でもできる殺陣の練習って?
梶先生ご自身は、自宅でどんな殺陣の練習をされているのでしょうか?
無意識というか、思い立ったら動いちゃっているっていうことは多いですね。ダンスの先生なんかもそうなんですよね。そういう場合の練習は基本的に全部の指を使って「こうやって斬って、こうだよな」というような形でやりますね。あとは、料理ですね。
おお、料理ですか!?
そうです。料理は刃物を扱う上ですごく大切というか、実際に包丁を使うことで、刃物のことを理解しやすくなる。子供たち、お母さん方にもよく「料理の手伝いをして、いろいろなものを切りなさい」と言ってます。
それは例えば、キャベツの千切りとかでもいいんですか?
全然いいと思います。まず「刃物だよ」というのを理解してくれないと、何を言ってもわからないんですよ。平気で刃の側を自分に向けて持ちますし。今の小学校って刃物を禁止しているところも多いんです。
小学校で刃物が使えないという話は、前回(第2回)も出ていましたね。ハサミやカッターがダメって、僕らの時代だと考えられないです。
それも、彫刻刀で手を切るという事件がいっぱいあったらしいんですね。
でも、それって昔からしょっちゅうやっていませんか?
そうそう、「それ、普通でしょう?」って。ケガしないで覚えることなんてできないんですけどね……。
そうなると刃物を扱う機会自体、だいぶ減っちゃっていますね。そんな中で、家庭内で使用が許されている数少ない刃物が包丁だ、と。
もちろん勝手に触っちゃダメですけどね。あくまで料理のお手伝いをするときだけ、です。ずいぶん前にテレビで観たんですが、お母さんが早くに亡くなられたご一家がいて、その娘さんがお母さんにお味噌汁の作り方を習ったそうなんですよ。たしか当時5歳とかで。
『はなちゃんのみそ汁』でしたっけ。ドラマにもなっていましたね。
その子は、5歳でもちゃんと豆腐を手の上で切ることができるんですよね。それを見て、「ケガすることもあるかもしれないけれど、きっとこの子は料理を通して刃物の使い方をちゃんと理解しているんだろう」と思ったんです。
もちろん特別な例ですし、実際に料理をする場合は保護者がみていることが前提ですが、小さい子だから刃物の使い方がわからないということはない。だから教えている子どもたちとご両親には、家庭で一緒に料理をすることを勧めてはいるんですけれど……。
けど?
僕も親なのでわかるんですが、やっぱり子供に刃物をもたせるのは怖いんですよね。
それは……そうかもしれないですね。まったく刃物を扱わせないのも違うし、かといって安全に扱える方法が確立されているわけでもないですし、難しいところです。
でも、小さい頃から料理に親しんでおくという意味では、女子も男子も関係なく、料理で刃物を扱ってみるというのは大事な視点な気がしました。
ペットボトルで「刀の重さ」を実感しよう!
じゃあ、料理だけじゃなくて、家で刃物を使わずに殺陣っぽい動きを学ぶことってできますか?
まずはペットボトルを使った練習をやるのがいいですね。
ほうほう。ペットボトルでどんな練習をするんですか?
真剣=本物の刀って、大体1.5㎏から2㎏ぐらいで、そうするとちょうど1.5リッターのペットボトルを満タンにしたものとほぼ同じ重さなんです。
刃物であることを意識して「重み」を感じて、これを持って歩くというだけでも、随分と足の動きが変わってくるはずです。ここの足運びを適当にやってしまうと、ふらついて自分に刺さってしまうこともありえます。なので、「重いものを持って動く」練習は必須ですね。
なるほどですね。確かにプロの殺陣を見ていると、軽々と刀を操っているように見れるけど、それは達人だからという表現で、本来の刀はすごく重いはずですよね。
ええ、本来は重いものです。ただ撮影とか舞台だとかで重い刀や本物を振っていたら、命がいくつあっても足りないので、軽量化されているものを使っていますが。
でも、その本物の重さの感覚や、ずっしりした動きみたいなものを肌感覚で知ってないといけないですよね。
それがいわゆる「演技」ですよね。「重いものを持って動くとこうなるんだよ」ということを染みつかせておかないと、ただ木を振っているだけになっちゃうので。
その重さを意識した動きって、どんなものなんでしょうか?
基本的に真っすぐは立ちませんね。小学生の子にもわかりやすいような例えだと、学校の掃除の時に机とか椅子を運ぶじゃないですか。
はい。
あの時の歩き方が一番身近だと思います。たぶん、足をそろえて歩いていないはず。足の横幅、僕は「スタンス」と呼んでいますが、スタンスを広げて歩いてバランスが整う、あるいは力が入りやすいようにする足運びは、意識せずともみんなやっているはずなので。
たしかに、重いものを持つと足幅は自然と肩幅に近づいてきますね。
ドッジボールでもなんでもそうですけど、運動する時は必ず足を開いているはずなんです。けれど、みんな軽いものを持つと足を閉じちゃうので。そうすると演技にならないんですよ。
その時の自分の姿を鏡で見たりするといいのかもしれないですね。
ええ、いいですね。テアトルの教室であれば、大きな鏡があって見やすいんですけれど、家庭だとそれもなかなか難しいかもしれません。大抵の姿見は細いですしね。
そうなると、鏡に映る範囲内でできる練習となると、前後にしか動けない。だから、まずは重いものを持って前後の動きだけでも練習するのがいいかもしれません。
街でもどこでも意識すれば、あらゆる場所で練習できる!
ほかにも普段の生活でできる練習って、あったりしますか?
例えば街を歩いているときとかに、ショーウインドウに映っている自分の姿を意識すると、いろいろなことが上手になってきます。胸を張りながら歩くとか、そういう普段の行動も、意識ひとつで変わってきます。
体に対してもっと敏感になるのが大切なんですね。そのなかでも、とくに足の動きが大事だと。
ケンケンパってあるじゃないですか。あれを想像してみてください。「ケンケン」の次の「パッ」と開く瞬間が大事なんです。片足だったバランスを両足を使って整える。開いた時の足が個人個人違うはずなので、それを遊びながら「どのぐらい開いているかな」というのを見てみると、わかりやすいと思います。まあ、実際の殺陣ではケンケンはしませんけれど。
バランス感覚ですね。
はい、例えばテープで床に貼り付けて線を引いて、そこを踏まないように、だけどそこを通るように、あるいはジグザグに動いていくと、殺陣というか剣術的な動きになりやすいです。
おお、それなら家でもできそうですね!
実際の「鉄の刀」ってどんなもの?
今、ここに鉄の本当の刀があるのですけれど。
おお……、これは真剣ですか?
これは模擬刀なので実際に切れません。重さは同じです。ただし、鉄なので刺さることはあります。2年前には模擬刀が刺さって亡くなってしまった事故もあります。
確かにずっしりと重いですね。
真剣じゃないけれどもこれも鉄の塊なので、振りすぎると致命的な事故に繋がります。しっかりこれを止める、動かす、回す、返すという技術が必要になってきます。だから、普段の練習をするのなら木刀が一番いいですよ。木刀って昨今、軽くなりましたから。
とはいえ、やはり重いものを持った体験が大事なんですね。
それをどう覚えているか、が大事になってきます。昔、倉庫でアルバイトをしていたんですが、いろんな荷物がいっぱい保管されていて、そこにアングルという、鉄の長い棒があったんです。それを持って練習したりしていました。
アルバイト中なのに(笑)。
何しに行ってるんだって感じですよね(笑)。そうやって練習してたら刀の扱い方が変わって、先輩にも褒められるようになりました。
実際に持つ体験が生きてきたんですね。
でも、真剣はやっぱり違うと思います。
真剣ではないんですが、かなり本物に似せてるものは持ったことがあるんですよ。持った瞬間にすごい怖かったというか、命を意識しました。
第1回でも話しましたが、殺陣は絶対に人を傷つけてはいけないんです。だけど、殺陣を真剣でやっている人たちがいたんですね。やっぱり、絶対に安全だとわかってても「うわ、怖いな」と思って、見てられないです。
うーむ。
でも、真剣を使うときの「心」は知りたいですよね。覚悟というか、怖さも知った上で殺陣に挑むと、演技に凄味が出ると思います。ただ攻撃するだけでなく、命がけで戦っていることを表現している、深い演技になりますよね。
気迫が違ってくるんですね。
もちろん、最初から「真剣を持て」とは言えません。でも、本気で殺陣をやりたい人は、時間はかかりますけど、いつか目指してもいい領域かもしれないですね。
刀の切っ先で、ひらがなの“あ”を書いてみよう!
今までのお話を聞いて、刀の運び方が大事だということはわかりました。でも、それって具体的にはどんなものなんでしょう?
身近なものでいえば、習字に近いです。習字って基本的に肘から一方向に行きますよね。刀も同じように、基本的に刃を向いている方向にしか進まないというものなので。だから、僕はよく子どもたちに「習字に似ているよ」と話してますね。
なるほど……?
刀で実際に文字を書いてみると、もうそれだけで殺陣っぽく見えるんですよ。空中に字を書くとか、砂場の上に字を書くのも、いい練習にはなると思います。
手首をクルッと回転させずに動かすのも、似ていそうですね。
基本的に殺陣は右利きしかないのですけれど、たとえば野球で右利きのバッターがバットを振る場合、左の手で振ってるんですよね。
そうですね、バットのコントロールは左手が重要と言われたりはします。でも、体全体ではなく手首だけ使ってバットを振ったりするとケガの危険性が……。
ま、そうかもしれませんね(笑)。補足しておくと、殺陣の場合はファンタジーなので、手首をガンガン使う場合もあります。なんせ刀から炎が出ることもありますからね(笑)。
そういうパターンは例外として、手首を使わずに肘から一方通行の動きが基本になるんですね。
そこを抑えると、殺陣が楽しめるようになると思います。この部分を、動画で実演してみましょうか。
お願いします!
梶先生、今回もサービス満点の動画、ありがとうございました(笑)。
刀の切っ先で、ひらがなの“あ”を書くと殺陣に必要な動きをひととおりやれるんです。だけど、「あ」という字は、普通に書くのも難しいですよね。
「あ」は、真っすぐな動作もあれば、曲がる部分もありますね。
曲げる部分は回す動作が必要になりますが、絶対にグルンとは回らないので、ここで「返す」という動きが出てきます。
「返し」が必要な理由は、刀が重たいからですか?
さっき言ったように刀は一方通行、刃が向いてる方向にしか進まないです。
だから、実際に刀を右から左とか、下から上に動かしていくと、返し方が少しわかるかもしれません。「はね」と一緒ですかね。回すのも1方向しか回らないので、ある程度回したら、また体を回していかないといけないんです。
なるほどですね。これは鏡で見たり、動画を撮ってやってみるのもよさそうです。梶先生、今回もありがとうございました!
というわけで今回も梶先生に「殺陣の基礎」について伺ってきました。最初は難しいかもしれないですが、ぜひ読者の皆さんも、100均の刀などをうまく使って、お家で挑戦してみてください!
そして梶先生の連載も、今回でおしまいです。第1回、第2回の内容ともあわせてぜひ「殺陣」に入門してみていただければ幸いです。それではまた!
文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤