総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?
……読者の皆様には、そんな疑問をお持ちの方々も多いのではないでしょうか。
この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する、第一線で活躍する講師陣の方々をお招きして、講義の内容の一端が伺えるようなお話を編集部が聞いていく連載をやってみています。
今回ご登場いただくのは、歌唱指導を担当する亀田増美先生。数々のタレントや芸能事務所にボイストレーニングの指導を行い、テアトルではアーティスト育成専門コース「ON-LABO」でも指導している、大人気の先生です。
亀田先生には「課題曲:紅蓮華 真の“歌ウマ”になる歌唱講座」と題した連載をお願いしていますが、初回となる前回の結論はなんと「自分らしく歌ってみよう」でした。
【動画あり】みんな大好き『紅蓮華』を歌いこなしたい!そのために、まず最初にチャレンジすべきことって?
そして第2回となる今回は、「音痴を直すにはどうすれば?」という問いかけから始まります。しかし亀田先生の話は意外な方向に……? でも、またしても超本質的なお話が聞けちゃいました。ぜひ読んでみてください!
※記事の内容は公開時点のものです
亀田増美(かめだ・ますみ)
大阪府出身。大阪芸術大学演奏学科声楽専攻卒業。
幼少の頃より童謡を歌い始め、小学生からは児童合唱団に所属し、音楽コンクールで入賞、ラジオ番組にも出演。大学在学中にオペラで初舞台を踏む。
卒業後は多数のオペラ作品にソリストとして出演しつつ、童謡や日本歌曲など日本語曲の歌唱でも好評を得、ミュージカルにも進出。後進の指導にも携わり、「テレビ朝日主催 寛仁親王杯 全国子どもの歌コンクール」銀賞受賞者、その他にも多数のミュージカル出演者を出すなど、子どもの歌唱指導に定評がある。
「歌をうたう事は演じること、歌詞はセリフである!」をモットーに、現役を続けながら指導に当たっている。
音痴は生まれつき……なんかじゃない!?
前回は「完コピよりも、自分らしく歌うことが大事」という話でしたが、今回からもう少しテクニック寄りのお話を伺いたいと思います。たとえば「音痴を直すにはどうすれば?」というようなお話ができればと思ったのですが……。
そうですね、そういう話も少しはしなくちゃ(笑)。でも、またテクニックの話から遠ざかっちゃうんですけど、歌がうまくなるには、歌う練習をする前に、まず「聞く」ということがとても大事なんですよ。
ええっ(笑)! それはまた、どういうことなんでしょう……?
「生まれつきの音痴」なんていないんです。音痴と言われる人は、単に「聞く力」が弱いだけなんですね。
以前、とある有名な芸能人の方を、事務所から「音痴をなんとかしてくれ」と言われてお預かりしたことがあって、そのときは歌うのではなく「聞く」練習をひたすらしてもらったんです。そうしたら、3ヶ月くらいでライブで歌えるぐらいになりましたよ。
「聞く」トレーニングでそんなに上達するんですね……! ちなみに「聞く力」の弱い人って、具体的にはどんな特徴があるんでしょう?
一言でいうと「集中力」がないってことなんですよね。音楽を聞いていても、なんとなく聞き流してしまっている。
初回に話したように、いまは『鬼滅の刃』の影響で、テアトルの子どもの8割がLiSAの歌を熱唱するんです。小学校の給食の時間にかかるらしくて、それを聞いた小学生が家に帰って家で歌って、その影響で幼稚園児の妹や弟が覚えちゃう。「紅蓮華」ももちろんなんですが、(『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌の)「炎(ほむら)」も歌っている。
あんな「煉獄さーーーん!!!」ってなっちゃうような情念の込もった歌を、幼稚園児が歌うんですね(笑)。
全然意味をわかってないのに歌うのが、すごく可愛いんですけどね(笑)。「鬼滅」関連の曲でもそうでなくても、いろんな曲を聞いてみて、まずは自分が好きになれる、歌いたくなるような曲を見つける。これがステップ0。
次に、ステップ1として「その曲を集中して聞いてみる」。そのときの注意点として私がよく言っているのは、「歌わないで」ということなんです。
「歌わないで」! 面白いですね。
曲に合わせて自分が歌うと、自分もちゃんと歌えてるって錯覚しちゃうんですよ。元曲の歌手はズレずに歌えているわけですが、人間って適当なところがあるから、自分がズレていても、聞こえてくる元の歌手の歌声のほうを認識しちゃって、「自分はちゃんと歌えてる」って勝手に解釈しちゃうんです。
なるほど〜〜〜。たしかに歌を歌うときには原曲にそのままかぶせて歌っちゃいますけど、それだけやっていてもうまくならない、ってことなんですね。
そうですね。歌詞とメロディを覚えて、そのあと「3回」集中して聞く。そこからやっと1回、合わせて歌ってみる。
歌いたい気持ちを我慢して、まずは「聞く」。それができるようになってから、ようやく「歌う」練習をはじめるんですね。
歌の練習は座って机の前でする!
ライター・編集者として文章の仕事をしていても思うんですが、普通に生活していてみんな文章はたくさん読んでいるはずなのに、いざ自分で「書く」となると、変な文章になっちゃう人がけっこう多くて。それは、インプットの部分を丁寧にできていないから、なのかもしれませんね。
物書きさんの世界はわからないから推測になっちゃうけど、おそらく、「読む」がきちんとできるようになってはじめて、「書く」ができるようになるんじゃないですか?
それはあると思います。というか、ほぼすべてだと言っても過言ではないかも。
歌も、「聞く」ができるから、「歌う」ができるようになるんです。やっぱり最初の段階で「耳を鍛える」ってことが大事ですね。
なるほど……「聞く」ということが、何か難しいことだとは、誰ひとり思ってないかもしれませんね。
もうひとつ、私には師匠が何人かいるんですけど、イタリアにいる師匠が「歌の練習は、机で座ってしなさい」と言うんですね。
これはまた(笑)。どういうことなんですか?
机に座って歌うんではなくて、歌詞を見たり楽譜を見たり、目で見て、そして音楽を聞いてみるってことなんです。師匠からは「練習、デスクでどのぐらいやってきたの?」って聞かれて、「えーっと……」ってなるんですけど(笑)。
で、CDをかけたりして耳で聞くことを「きちんと字で追いかけなさい」と言われる。私も「デスクでやる」のはいいなと思って、レッスンで生徒たちによく言っていますね。
それは「字を見る」ことによって、歌詞にとらわれず音に集中できる、ということなんでしょうか。
要は、立って歌うポーズをとってしまうと、歌っちゃうんですよね。だから座って、歌うこと以外の方法で音楽を突き詰める。それが究極のところだと、私も思うんです。
……というわけで、今回は「歌ってみせる」という内容ではなくなっちゃってますが、動画はどういう内容にしましょうか(笑)。
うーん、そうですね……。今回は、この内容をお話しいただきましょうか(笑)。では、動画を回させていただきます!!!
亀田先生、ありがとうございました。今回も、とても本質的なお話を伺えたと思います。
「聞く」もそうなんですが「見る」も、とても大事です。曲の歌詞を、歌わずによく見つめてみて、その歌詞に何が隠されているのかを読み解く国語力。私は、歌には国語力が重要だと思ってるんです。
なるほど。「歌う」にも国語力が必要だったんですね。
私が指導するときのキャッチフレーズとして、「歌詞はセリフである」というのがあるんです。
さきほど動画のなかでもお話ししたように、歌わずに歌詞を見つめてみたり、ご家族で座って聞いてみる。何を言っているのかを聞いたり、感想を出し合ったりとか、どんな言葉が聞こえてきたか書いてみたり言ってみたり、ゲーム感覚でやってみると面白いですよ。
どんなワードが聞こえてきたのか。それは子どもと大人ではまったく感性違うはずなので。
たしかに、そのやり方なら、大人も子どもも一緒になって楽しみながら「歌」を学べそうですね。亀田先生、今回もありがとうございました!
というわけで、前回の「完コピよりも、自分らしく歌うことが大事」に続き、今回は「歌う力の前に、聞く力」というお話でした。歌をうまくなりたいと思ったときに、大人も子どもも一緒になって取り組めることが、だんだん見えてきたように思います。そして次回はいよいよ「歌い方」のお話に入っていきます! お楽しみに!