総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?
そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する一流講師陣の方々をお招きしてお話をうかがう講義連載をやっています。
「ダンス」「演技」「歌唱」「YouTube」など様々な表現ジャンルがあるなかで、「歌唱」を担当する亀田増美先生に、「課題曲:紅蓮華 真の“歌ウマ”になる歌唱講座」と題して、「歌」に対する基本的な考え方や練習方法を伺っています。
初回は「魅力的な声とは?」、第2回は「音痴を直すには?」をテーマにお話しいただきました。
【第1回】みんな大好き『紅蓮華』を歌いこなしたい!そのために、まず最初にチャレンジすべきことって?
【第2回】音痴を直すには「歌う」よりも「聞く」練習がだいじ!? 歌唱指導の亀田増美先生に「歌ウマ」になる第一歩を教えてもらいました
前回(第2回)は「歌う練習をする前に”聞く”練習が重要」「そのために、机に座って”練習”してみよう」というお話でした。そして今回第3回はいよいよ、「歌唱の基本的テクニック」について伺っていきます。
※記事の内容は公開時点のものです
ハイトーンボイスとはなんぞや?
これまでの連載では「完コピよりも、自分らしく歌うことが大事」、「歌う力の前に、聞く力」ということを学んできました。今回はいよいよ「歌い方」についてです。
『紅蓮華』もそうですが、最近流行っている曲のほとんどにハイトーンが入っています。King Gnu(※1)なんかも、非常に高い声で歌うでしょう? でも、昭和歌謡の時代、筒美京平(※2)先生や三木たかし(※3)先生のような作曲家たちが作っていた曲って、もっと音域が狭くて、誰でも歌えるものだったんです。世の中に「高い声がステキ」という風潮が生まれてきたのは、ちょうどマライア・キャリーが出てきた90年代後半以降なんです。
※1 King Gnu:4人組ミクスチャーバンド。ロック、R&B、ジャズ、クラシック、歌謡曲などさまざまなジャンルを参照し独自のサウンドを作り上げている。2019年にはNHK紅白歌合戦にも出場。
※2 筒美京平:1960年代から2010年代にかけて、日本音楽界で最も多くのヒット曲を生み出した作曲家。歌謡曲からJ-POP、アニメ主題歌まで幅広いジャンルで活躍した。
※3 三木たかし:作詞家・阿久悠とのコンビで昭和歌謡界に多数のヒット曲を送り出した。「アンパンマンのマーチ」の作曲でも知られる。
マライア・キャリーはデビュー当時から「7オクターブの音域」と話題になりましたね。
その後、「ハイトーンボイス」という言葉も出てきて、いろいろなアーティストの方が高い声を取り入れていくようになりました。
なるほどなるほど。
でも、その流行のハイトーンボイスを一般の人が歌えるかというと、訓練していないから難しいんですよね。
『紅蓮華』のLiSAさんのようなハイトーンボイスを自在に歌いこなせたら、さぞかし気持ちいいでしょうね〜。
当然、LiSAさんもすごくトレーニングを積んだ声をしています。LiSAさんの声は、ライブ活動の蓄積だけでなく、身体も鍛えているからこそ出る声だと思いますよ。
歌の呼吸其の一、「黒と白」
身体の鍛錬も必要だと……。LiSAさんはまさに「歌柱」といえる存在ですね。『鬼滅の刃』ネタで引っ張ってしまいますが、ハイトーンボイスを使うときにも「全集中の呼吸」のような技が必要なのでしょうか?
まず知っておいてほしいこととして、人間の声は大きく分けて2つあるんです。それは、
①胸(=チェスト)から出している「地声」
②頭(=ヘッド)から出している「頭声」……これはいわゆる「裏声=ファルセット」ですね。
「ハイトーンボイス=ファルセット」と思われがちですが、実際はミックスボイスと言われる、チェスト(地声)とヘッド(頭声)の間の声なんです。私はよく「黒と白」って呼んでいるんですけど。
「黒と白」?
チェストが黒、ヘッドが白とすると、その間にはグラデーションがあって、そのグレーの部分を作らなければいけないんです。
裏声にも種類があるということでしょうか?
例えば、猫って「ミャー」って高い声出してるときは「頭」のほうで声を出してるけど、喧嘩するときに「ウォォー」ってすごい声を出すじゃないですか。あれは「胸」から出しているんです。
たしかに。あれが猫の「地声」なんですね。
そうです。人間も犬も猫も同じです。歌っている人の頭蓋骨をレントゲン撮影してデータをとると、頭蓋骨の上部分に必ず共鳴帯をズラしているんですね。
大半の人は声を出すときにそれを意識していないけれど、これは歌手はもちろん、女優さんや声優さんも意識しないといけません。
なるほど。多くの人は「人前で喋る」という機会はあるわけですけど、そのときに「地声」と「頭声」の2つを意識していくと、相手に伝わる印象も変わっていきそうですね。
ハイトーンボイスは日本人には不利?
でも、そもそも私たちの使う日本語って、ほとんどハイトーンがないんですよ。
おお、そうなんですか!?
たとえば、私は米軍基地の子どもたちを教えることもあるのですが、アメリカ人のちびっこたちはみんなずっとハイトーン。それと比べると日本の小学生はおしゃべりの声も低いんですね。韓国の人、中国の人もけっこうハイトーンですね。日本人というか、日本語を日常生活で使っている人間だけが、少し低音気味に喋ってるんです。
じゃあ、普段から他の国の言葉を使っている人よりもハードルが高くなってしまうのかも…。ハイトーンボイスを練習するためのコツはあるのでしょうか?
私は「HEY!」って言う練習をするといいよ、と指導してますね。
へい?
本当にそうなんです。私はアメリカ人の方にも歌を習った経験があって、最初は3時間くらい「HEY」と言わされ続けましたよ。
なんと……まるで柱稽古みたいですね。何かをひたすらにやらされているけれど、何のためにやっているのかわからないという(笑)。
ハイトーンを出すためには声帯を前と後ろで強く緊張させないといけません。音が高くなっていけばいくほど、声帯を強く引っ張ることになります。「HEY」と発声することで、声帯を1回ボンと引っ張っておいてあげると、スポーツでいうストレッチした後みたいになって、中音域も低音域も上手く歌えるようになります。
もし、HEYだと恥ずかしいと感じるなら「ハーイ」がオススメです。テアトルアカデミーでも、子どもたちには「ハーイ、ハーイ、ハーイ」と教えています。
なるほど。
「ハーイ」とやると口角が上がるんです。高い音を出すっていうことは上に共鳴を持ってきているので、表情筋は上に上がってるんですね。
ちなみに、千葉に、それがとても上手な方がいるんです。世界一有名な……。
それはまさか、人ではなく……世界一有名なネズミ!
そうです。「僕、◯ッ◯ーだよ!」って言うじゃないですか。あれは完璧です。彼の真似をして、ハイトーンを出す練習をしてみるのもいいですね。
な、なるほど。『鬼滅の刃』から夢の国まで、ハイトーンボイスは奥が深いですね。では亀田先生、ぜひ動画で実演をお願いします!
というわけで今回は亀田先生に「ハイトーンボイス」の出し方、そして練習方法を教わりました。そして次回からは、表現力豊かに歌うための「表情筋」の使い方、そして少年少女期特有の「変声期」をどう乗り越えていくかなど、より具体的なお話に入っていきます! ぜひ、お楽しみに!
文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤