「振り付けのひとつひとつに意味がある」ダンスをもっと楽しむために知っておきたいこと(講師:青木サトミ先生・最終回)

連載コラム

 総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?

 そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミー(以下、テアトル)が擁する一流講師陣の方々をお招きし、普段の講義の一端が垣間見えるような、講義連載をやっています。

 演技や歌唱からYouTubeまで、様々な「表現」にまつわる記事を連載していますが、今回は「ダンス」の講師を務める青木サトミ先生の連載・最終回です!

 青木先生の連載第1回では「ケンケン運動の重要性」、第2回は「身体のやわらかさがなぜ大事なのか」、第3回は「体幹の重要性と鍛え方」、第4回では「リズム感を養うための“音の聞き方”」、第5回では「動きの基本=アイソレーション」を、それぞれ教わってきました。

【第1回】ステイホーム期間はNiziUで踊ろう! 親子でかんたんケンケン体操

【第2回】「体がかたいと表現力の高いダンスはできない」!? おうち時間に取り入れたい3つのストレッチ

【第3回】BTSみたいなキレキレダンスができるようになりたい!そのために必要な「体幹」の鍛え方

【第4回】ダンスのリズム感を養うには何から始めればいい?ダンス講師・青木サトミ先生に、初心者にもできる練習法を教えてもらいました

【第5回】NCT U『Make a wish』のスゴさは「アイソレーション」にあり!? ダンスの基本となる動きを学んでみよう!

 最終回となる今回は、これまで長年ダンスに携わってきた青木先生に「ダンス上達のために意識したいこと」、そしてダンスをする側だけでなく支える保護者にも向けた「ダンスを楽しむために知っておきたいこと」について伺っていきます!

※記事の内容は公開時点のものです

青木サトミ(あおき・さとみ)イメージ写真

青木サトミ(あおき・さとみ)

東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校卒業。東京ディズニーシー、フライングパフォーマーとして出演。テアトルアカデミーのダンス講師歴は10年以上。踊る楽しさだけでなく、表現者としての体作り、心の在り方を伝えている。幼稚部から大人まで幅広く担当する。

「見る」「意識する」「理解する」上達のための3か条

青木先生の連載も6回目、とうとう最終回です。今回は、少し抽象的ですが、よりダンスがうまくなるために必要な“考え方”について教えてもらいたいと思っています。

言葉で説明するのがけっこう難しいんですが、がんばります!

ありがとうございます! 青木先生は子どもたちに教える中で、上達が早い子に何か共通項はあると思いますか?

あるとしたら「ちゃんと見る」「意識する」「理解する」、この3つだと思います。

深い話になりそうなキーワードです。

振りを覚えるためには何回も反復して慣れる必要があります。そのときに大事なのは、お手本となる先生の動きや参照動画をちゃんと見て、手の上げ方、首の角度、そういう細かい部分まで自分が同じようにできているか意識すること。

最近では、自分が踊っている姿を動画に撮って確認する子もいるんですよ。客観的に見られるのがいいんでしょうね。そういう子はちゃんと動けるようになるのが早いな、と感じます。

踊って、撮って、お手本と見比べて何が違うか考える。せっかく簡単に動画で自己分析できる時代なんだから、活用しない手はありません。

我々の子ども時代からは考えられないくらい手軽に動画が撮れますからね。3つ目の「理解する」というのはどういうことでしょうか?

踊る曲の世界観をどれだけ理解できているか、という意味です。欅坂46(現・櫻坂46)のダンスってすごく印象的でしたよね。

雰囲気がすごかったです。

デビュー曲の「サイレントマジョリティー」なんかは、振り自体は実はそんなに難しいことをしていないんですよ。でも曲の世界観に合わせて硬い表情を貫くことで力強さが生まれていて、インパクトがありました。

たしかに、歌詞の内容通りに「拒絶」を強く感じるダンスでした。

あれをニコニコ笑いながら可愛らしく踊っていたら、全然違うものになりますよね。逆にNiziUの「Make you happy」はタイトル通り「笑ってほしい」「元気づけたい」という曲だから、あれだけ笑顔で元気に可愛く踊ってるわけです。そういうところを理解できているかどうかが、上達のポイントになってきます。

振り付けのひとつひとつに意味がある!

「この曲は笑顔でやるべきか真顔でやるべきか」くらいは比較的わかりやすいように思えるんですが、世界観の理解度はもっと細かい動きにも反映されるんでしょうか?

そうですね。ピタッと止まる動きひとつにしても、曲自体とその音に合わせて、とにかくしっかり止めるのか、余韻を持たせて止めるのか、で違いが出てきます。

青木先生も、自分で振り付けをつくられるんですよね?

ノートに手書きで振り付けをつくっていくという青木先生。歌詞を理解して動いてみて、その中から組み立てていくそうです。

はい。自分で振りをつくるときは、歌詞を書き写したり、英語や韓国語だったら和訳したりして、曲の持つメッセージや世界観をしっかり理解するようにしています。
歌詞をヒントに振りを決めることもよくありますよ。「1秒」「1個」みたいな言葉が出てきたら指を立てるとか、「心を込めて」みたいな言葉のときは胸に手を当てて前に差し出すとか。

なるほど。歌詞の世界をより深く解釈して、表現するわけですね。読解力が必要だ。

意外とそうなんですよ。だからこそ、そうやってつくられた振り付けを自分でも解釈するのが大切なんです。

MIIHIみたいになるには? まずは心を込めること

以前マツコ・デラックスさんとJ.Y.Parkさんの対談で、マツコさんが「(NiziUの)MIIHIのダンスはすごく世界観があって、彼女だけが宇宙からの電波を受け取ってるように見える」というようなことを話していたのがすごく印象的だったんです。
たしかに、MIIHIちゃんのダンスってすごく独特なんですよね。振りが完璧であるとか拍がしっかり取れているとか、そういうこととはまた違う世界があるんだな、と感じたことを思い出しました。

同じ振りをやっていてもMIIHIちゃんの世界がありますよね。それがまさに見せ方ということなんだと思います。本当にうまくなりたいのであれば、そういうところまで突き詰めてほしいですね。

一朝一夕にはMIIHIちゃんのレベルまで達せないと思いますが、まずはどんなところから始めるのがいいんでしょうか。

それは、心を込めて踊ることだと思います。

心がこもっていれば、すごく上手ではなくてもがむしゃらさや諦めない姿勢が見る人に響く。ダンス以外にも通じそうなお話です。

心を込める。

はい。決して上手ではなくてもグッと来るダンスをする人って、いるんですよ。心を込めると、やっぱり伝わるものがある。それと集中して、自分の世界に没頭すること。踊っているのを見ていて「あ、いま素が出たな」というのは結構わかるんです。

そうなんですか!?

そうそう。「ちょっと気抜いたでしょ」「頭の中で考えながら踊ったよね」って、生で見てるとわかっちゃうんです。
だから頭はどこか冷静でいながらも、とにかく体ひとつで表現して伝えることに集中する。ただ動くんじゃなくて、お客さんに向かって「見て!」と興味を引く気持ちでやっているダンスは伝わりますから。

「見て!」という感覚はやっぱり大事なんですね。

大事です。そこを恥ずかしがらずにやりきることですね。

まずは真似からでOK!大人ももっとダンスを楽しもう

昔と比べて、日本人にとってダンスってすごく身近なものになりましたよね。でも、30代くらいより上の親世代にとってはまだまだあまり親しみはないものだと思うんです。

大人にも、もっとダンスを身近に感じてほしいですね。

せっかく自分の子どもがダンスが好きなら、親も敬遠せずに触れてみたらいいんじゃないかな、と。だけど身近ではないからこそ、どこから入っていったらいいのかなかなかわからないんですよね。

BTSの「Dynamite」が流行って、ダンスをやっていない同世代の友人でも「家で練習してる」って言ってる人がいたんですよ。それはすごくいいなと思いました。

私もこっそりやってみたことがあります……。

青木サトミ先生のやや右向きで笑顔の写真

いいじゃないですか! スタートはそこからでいいと思うんですよ。好きな曲をとりあえず真似して動いてみる。音に合わせて動いたらダンスっぽくなりますよね。そこからアイソレーションだったり本格的な要素を入れていって、ダンスになっていくんです。基礎トレーニングは大事ですけど、最初からそれだけずっとやっていてもつまらないじゃないですか。

そう言ってもらえると勇気が出ます。最後に、もっとダンスがうまくなりたい人へのメッセージをいただけますか?

撮りましょう!

青木先生、全6回、ありがとうございました!

 これまで6回にわたってお届けしてきた青木先生のダンス連載コラム、いかがだったでしょうか?

 いまダンスが好きな人もまだまだ練習中という人も、見てるだけの人にとっても、たくさんのヒントやきっかけがもらえたのではないかと思います。青木先生の言葉を胸に、もっともっとダンスを楽しんでいきたいですね!(了)

文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤