芸能にまつわるさまざまな情報を発信するこの「テアトルロード」ですが、これまで親世代とその子ども世代、シニアの方などに向けた記事を多くお届けしてきました。
……が! テアトルアカデミーには、芸能の世界を目指す10代の在籍生もたくさんいます。そこで先日は、女優・声優で現役高校生でもある小林星蘭さんのインタビュー記事(天才子役から声優への挑戦、そして“SNSとの向き合い方”まで。小林星蘭に聞く、芸能生活のこれまでとこれから)をお届けしました。
今回はその第2弾として、テアトル所属で俳優として活躍中、最近20歳を迎えたばかりの原舞歌さん・白石拳大さんのお二人に「10代の過ごし方」をテーマに取材しました。
10代といえば、(芸能活動をしていてもいなくても)悩み多き時期です。そんななかで二人が経験してきたこと、いま考えていることについて、じっくりとお話を伺いました。
※記事の内容は公開時点のものです
テアトル入学のきっかけと小学生時代
今日はテアトルに幼少期から在籍していて、現在は映画やドラマなどで活躍中の同世代のお二人に来ていただきました。
白石さんは1999年生まれで、原さんが2001年生まれですよね。まずは自己紹介ということで、これまでの活動と、いま取り組んでいることについて教えてください。
白石拳大です。群馬県出身で、10歳のときにテアトルに入学して、今年(2021年)で12年目になります。最初は群馬から東京に通っていたんですが、高校を卒業してからは「芸能一本でやっていくんだ」ということで上京してきて仕事を続けています。
今はコロナのこともあって舞台がなかなかできないのもあり、映像の方の仕事が多いです。
原舞歌です。私は神奈川県出身で、今は大学に通いながらこのお仕事をしています。大学では映画を作る勉強をしていて、こちらのお仕事では映画や映像を中心に出演しています。
ありがとうございます。お二人がテアトルに入ったきっかけは、どんなものだったんですか?
小学生のときに、ファンタ(コカ・コーラ社)のCMの企画で、「動画を撮って投稿して、選ばれるとテレビCMに出る権利がもらえる」というキャンペーンがあったんです。目立ちたがり屋な性格だったので「自分の特技を披露したりして、テレビに出られるんだ」と思って。そのCMを境に「テレビに出たい、出たい」とずっと言っていたら、親が新聞でテアトルの広告を見て、応募してくれたのがきっかけです。
私も、小さい頃から目立つのが好きで幼稚園のお遊戯会でも悪役をはりきってやっていた記憶があります。それを見た母が「習い事でやってみる?」と言ってくれて、「やるやるやる!」という感じでオーディションを受けて、4歳のときにテアトルに通いはじめました。
原さんは小学校入学前からテアトルに通われていたんですね。レッスンは親御さんと一緒に通っていたんですか?
はい、最初の頃は母と一緒に通っていました。まだあまり字が読めないうちは、レッスンの台本を一緒にやってくれたりもしました。
白石さんは小学生のときに入って、群馬からテアトルの東京校に通っていたんですよね。
はい、片道2時間ぐらいかけて一人で通ってました。日曜日の朝に早起きしてテアトルに行って、地元で少年野球チームにも入っていたので午後はすぐ帰ってそちらにも参加して。
一人で通っていたんですね。そして小学生にしてはなかなかハードスケジュール……!?
でも、レッスンでお芝居をするのが楽しくて、テアトルに行きたくてしょうがなかったので、全然苦ではなかったです。
なるほど。お二人に聞いてみたいんですけど、テアトルは子役のときから挨拶をはじめとして礼儀の部分を徹底していますよね。
高田馬場にある東京校に取材に来るときも、皆さんあいさつをしっかりしてくださっていて、自分は結構な大人なのですけれど「こんなにちゃんとやってないな」といつも思うんです(笑)。お二人の子役時代は、やっぱりあいさつだったりは気を付けていました?
小学生のときに現場に行くと、周りのタレントさんたちがあいさつをしっかりされていたんです。それを見て「自分もそうしなきゃ」と自然に思えたというか。
それで言うと私は小さいときに、反抗期だったのかわからないのですが「おはやっす……」みたいな、ちゃんとあいさつができない子だったんですよ。
オーディションでも現場でも「おはやっす……」ってやってたら、母に「ちょっと来い!」「せっかく呼んでもらってるんだから、ちゃんとあいさつしなさい!」とすごく怒られたことがあって。あいさつがきちんとできるようになったのは、母のおかげかもしれないです。
ちなみに礼儀やあいさつをしっかりやっていると、どういうときに活きるんでしょう? 何かすごく当たり前のことを聞いていて恥ずかしい気もするのですが(笑)。
1回ちゃんとあいさつをできると、その後で相手の方とすごくお話ししやすくなったり、距離が柔らかく縮められるようになる気がします。だから私は、あいさつはすごい大切だと思いますね。
やっぱり明るくあいさつされると、する方もされる方も気持ちがいいですし、こういうのは損得で考えるのはよくないんですけど、損はないのかなって。どこの場でも、明るくあいさつするに越したことはないのかなと思うんです。
なるほど、改めて考えてみると、あいさつって「良い空気感を作る」という効果があるのかもしれないですね。現場って人どうしで作り上げていくものですし、それはすごく大事ですよね。
テアトルであいさつが徹底されているのって、「芸能の現場を長くやってきた人たちの知恵が受け継がれている」ということなのかもしれないな、と思いました。
子役から俳優へ。10代の時期はどういうふうに過ごした?
子役時代を終えて中学生になると、勉強や部活だったりで少し忙しくなる時期じゃないかと思うんです。お二人はテアトルでのレッスンや芸能のお仕事と、学校生活のバランスはどういうふうにしていましたか?
私は中学受験をして私立に入ったんですが、中学を選ぶときに、ある程度休んでも許容してくれる学校を選んだんです。だからたとえばお仕事で学校を休むことになってしまっても、先生も理解してくださって。
お仕事と勉強との両立はできていたとは思うのですけど、時期によっては現場の空き時間にテスト勉強をしていたりとか、そういうことはありました。
僕は地元の公立中学に通っていて、特に部活とテアトルの活動の両立は頑張ったと思います。
部活は休日の活動がメインだったのですが、自分はその時間もレッスンに行っていたりしたので、仲間が大会に向けて頑張っているときに置いてかれたくないと、死に物狂いで一番になろうとはしていて。
白石さんは、部活は何をやっていたんですか?
器械体操をやっていました。県でベスト3に入ったぐらいなので、けっこう頑張っていたかなと(笑)。
そうだったんだ、すごい!
かなり気合いが入った中学生だったんですね(笑)。
オーディションについても伺いたいのですが、小学生のときと中学生になってからって、やっぱり変化はあるんですか?
中学生になったとたん、いきなり高校生の役が来たりとか、求められる年齢の幅が広がった感じはありましたね。
小学生のときは「元気で、素直で、明るい」というか、子どもならではのピュアさのようなものが求められていた気がします。
でも中学生になると、現場に行ってもあいさつがきちんとできているかであったり、少し大人として扱われるというか、社会性の面は厳しく見られるようになったのは感じました。
なるほど。その意味で言うと、たとえば小学生ぐらいの時期は親御さんがリードしてくれたりして、ちょっと受け身な時もあるかなと思うんです。でも、中学生になってきたら少し主体的に「演技の力をつけていこう」と、意識が切り替わっていったりするものなんですか?
私は中学生ぐらいのときに「きっかけを作ってくれたのは母だけど、これから先は自分の意志でやっていかなきゃいけないな」と切り替わったように思います。それは、いろいろな現場で活躍されている方の背中を実際に見たり、マネージャーの方とも子役としてではなくて1人の俳優としてお話をしたりしていくうちに、だんだんそうなっていったのかなと。
僕は中学生になってから、だんだん自分のお芝居にこだわりみたいなものが出始めてきて、「この仕事をもっとやりたいな」という気持ちが強くなってきたかなと思います。
ただ、いま考えると、こだわりがあること自体は悪いことではないですけど、自分の考えに固執してしまうのは、役者としてはあまりよくない部分もあります。
なるほど、自覚が出てきたがゆえの難しさもあるんですね。
ちなみに中学生〜高校生の頃に演技の力を付けていく上で意識していたことや、自分なりに努力していたポイントって何かあったりします?
もらった台本を極限まで読み込む、ということでしょうか。台本って書かれていることだけがすべてではなくて、その話に至る前もあるし、後もある。そういうことを想像して、ひとつの世界観として広げてあげるのが大事なのかなと思います。
書かれている外側の、その世界がどういうふうになっているのかを想像してみるんですね。
そうですね。台本に出てくる登場人物の掘り下げをしてみると、「この人が、このセリフをしゃべっているのはなぜなんだろう」ということがわかってくることが多かったりするんです。こういう気持ちになっているから、このセリフが出る。そのセリフに対してこう返ってきて、こういう行動をして……と考えておくと、しっかり演技できる。人物の言葉や行動の一つひとつの背景に、その人の気持ちがあるはずなので、「広げる」というのは、そういうところの掘り下げかなと。
私が今も大事にしているのは、「1分1秒をどれだけ大事に生きられるか」ということなんです。
おお、それも面白いですね。どういうことなんでしょう?
お芝居は色んな人の色んな人生に寄り添うお仕事だから、色んなことを自分のことのように感じられないといけないな、と。だから自分の人生の中で起こったつらいことも楽しいことも、一つひとつをどれだけ大切にしていけるかが大事なのかなと思っています。
昔は「セリフを覚えなきゃ」「これ、こういうふうに言おうかな」とか、台本の文字だけに囚われがちで、その人が持っている悩みだったり、その人の信念のようなものを、まったく考えないまま演じてしまっていました。でも、それでは作品を書いた人にも失礼だし、実際のそういった境遇に置かれた方にも失礼になっちゃうなと。
いま、原さんが「信念」という言葉を使われましたけど、登場人物の心の中心のようなものを、書かれている以上にちゃんと考えていくことが大事だ、ということなんですね。
ただ、具体的に「これが正解」というのは本当にないと思うんです。「読み込んで考える」ということも大事ではあるんですけれど、自分が初めてその台本を読んだときに感じたこともやっぱり大事で。
なるほど、深く考える前のファーストインプレッションも同じくらい大事なんですね。たしかに言われてみると、台本を読んで最初に感じることって、実際に映像や舞台の場面になったときに、お客さんがその登場人物に抱く感情の入口でもあるわけですもんね。
一流の役者に「オーラがある」と感じるのはなぜ?
これまでお二人がいろいろな現場に行かれたなかで、ご自身の演技や仕事に対する考え方が変わったというエピソードがあれば、伺ってみたいです。
私は2年前に、大河ドラマの『西郷どん(※1)』に長い間、出させていただいていたんです。
そこで鈴木亮平さん、渡辺謙さんといった第一線で活躍されている方の人柄だったり、お芝居に対する向き合い方を長い時間にわたって見てすごく刺激を受けて、「お芝居をもっとうまくなりたい」と思いましたし、同時に「このままじゃダメだ」と、自分を見直す時間にもなりました。
※1 『西郷どん』:2018年に放映されたNHK大河ドラマ。維新三傑の一人、西郷隆盛(演:鈴木亮平)を中心に、幕末から明治維新期の日本を描いた。原舞歌は、西郷吉之助(のちの西郷隆盛)の次妹・西郷鷹(さいごう・たか)役を演じた。
原さんは、鈴木亮平さんや渡辺謙さんのどういったところが「すごい」と感じたんでしょう?
渡辺謙さんは『西郷どん』以前に、別の現場で一度お会いしたことがあったんです。その時は役柄が庶民的というか自堕落な男性の役(笑)だったので、すごくフレンドリーな感じで接してくださったんです。そのときは「オーラを消していた」のかもしれません。
それでもちょっとびっくりしたんですが、『西郷どん』のときはお殿様の役だったんですよ。
『西郷どん』での渡辺謙さんは、薩摩藩藩主・島津斉彬の役でしたよね。歴史的にも名君と名高い……。
最初に馬に乗って入ってこられたのですけれど、今でも鳥肌がちょっと立つぐらい、すごい迫力で圧倒されました。
第一線で活躍されている方は、まとっているものがやはりあるなと思って。
なるほど、それは面白いですね。渡辺謙さんは、オーラを消すこともできるし、出すこともできると。
そんな感じがしました。それは主役の西郷隆盛を演じられた鈴木亮平さんも似ていて。最初のほうは「西郷吉之助」という名前で、貧乏で、でも優しい感じの役だったんです。そのときはすごく親しみやすく接してくださっていたのですけれど、話が進んでいって「西郷隆盛」になり、お殿様と交流するようになったり、戦争が始まっていくときには、もちろん同じように接してくださるのですけれど、すごく雰囲気が違ってきているなと感じました。
吉之助が隆盛になっていく過程を、かなり早巻きで、目の前で目撃したんですね。
それと鈴木さんは、ものすごく深くて、吸い込まれそうな瞳をしているんです。それは一線で活躍している方の共通点としてすごく感じたところでした。「目の奥が深い」というか。
なるほど、「目の奥が深い」って、面白いですね。白石さんはいかがですか?
橋本環奈さんが主演の『シグナル100(※2)』という映画に出させてもらったときに、中村獅童さんが学校の先生役だったんです。その先生が、生徒たちに「あるルールを破ってしまったら自殺をしなければいけない」という催眠にかけるというサスペンス作品でした。
印象的だったのは、中村獅童さんと生徒役のみんなが初めて会う顔合わせの日に、獅童さんが入ってきたとき、そこにいたみんなが軍隊みたいに全員起立してしまったんですよ。
※2 『シグナル100』:橋本環奈主演、竹葉リサ監督、2020年公開の映画。宮月新による同名コミックスを原作とし、担任教師・下部(しもべ)(演:中村獅童)によって〈自殺催眠〉にかけられた高校生たちのデスゲームを描いた。白石拳大は井沢学役を演じた。
何かを感じ取ってしまったんですね(笑)。
実は、その少し前に大河ドラマの『いだてん(※3)』で、獅童さんの弟役で出させてもらったんです。『シグナル100』のときにあいさつをしにいったら、その時のことを覚えていてくれて、『いだてん』のときの感じで、すごくいい笑顔であいさつを返してくれたんです。
※3 『いだてん』:2019年放映のNHK大河ドラマ。近代日本とオリンピックの関係を中心に、スポーツの普及に尽力する人々の姿を描いた。前半の主人公が「日本マラソンの父」金栗四三(かなくり・しそう)(演:中村勘九郎)、後半の主人公は64年の東京オリンピック招致の立役者・田畑政治(演:阿部サダヲ)。前半の主人公である金栗四三は8人兄弟の7番目で、長兄・金栗実次(さねつぐ)を中村獅童が演じ、白石拳大は実次の弟、四三の兄である金栗又作(またさく)を演じた。
『いだてん』のときの中村さんは主人公・金栗四三の兄役で、「気のいいお兄ちゃん」という役でしたね。
だけど『シグナル100』のときはサイコパスな役を演じられていて。立つだけで周りが静かになる、それこそ目の奥に光がないような……すごく怖かったんです。佇まいで人を圧倒できるってすごいな、と思いました。
芸能人の方って、よく「オーラがある」って言うじゃないですか。私も取材で、非常に有名な芸能人の方だったりとご一緒することがあるのですが、確かに「オーラがあるな」と感じるんです。
でも、「オーラがある」ってどういうことなんだろう、どうやったらオーラって出るものなんだろう? というのが気になるんです。
うーん、なんでしょうね……。やはり第一線で活躍されている方って、喜劇だったり悲劇だったりで、いろいろな役を演じられていて、それを「自分の経験」として受け入れないといけなかったりしますよね。それを受け入れる心の余裕というか、「器の大きさ」みたいなものがにじみ出ているのかな、とは感じます。
いろいろな役を受け入れて寄り添ってきた分だけ、普通に生活しているだけではなかなか持てないような「器の大きさ」だったりとか、優しさだったりとか、そういうものを持っていらっしゃるのかなと、私も感じます。
一流の方って、現場でもものすごく周りが見えていることが多いんです。どんなに小さい役の方やインターンで来たようなスタッフの方にも、一人ひとり声を掛けたりする光景をたくさん見ましたし、そういうのを見ていると「そういうところなのかな」、と。
なるほど。お話を伺って感じたのは、逆の「器が小さい」というのは、「自分のことしかわからない」ということかもしれないですね。でも一流の役者さんたちは、「自分以外の人のことがわかる」というのがあって、それがもしかしたら「器が大きい」とか「目の奥が深い」ということに繋がっているのかな、と思いました。
「自分のままで演じる」「いい味を出す」――自信になった経験
お二人はこれまでたくさん現場を経験してきたと思うのですが、今度はご自身で「これは自信になった」という経験についてはいかがですか。
私は小泉今日子さん原作の『戦う女(※4)』というドラマの2話に出演させてもらったときのことが印象的です。現場に入ったら監督に台本を渡されずに「こういうシーンだから、こういう感じで」と言われたんです。
※4 『戦う女』:小泉今日子原作のドラマシリーズ。2015年にフジテレビ系列で放映。小学生、中学生、20歳、30代、42歳と、それぞれの時代の小泉今日子の視点で描いた自伝的作品。原舞歌は第2話で、神埼繭実役で出演した。
なんと(笑)。
「そんなのでやっていいの?」と思ったんですけど(笑)、もう自分のままでやるしかないから、本当に自分のまま1週間ぐらい現場に参加させていただいたんです。あとでお話を聞いたら、「オーディションのときの姿がすごく役とフィットして、ありのままの感じがすごく良かった」ということだったそうで。
それまでの私は、演技の仕事では「別の人にならなきゃ」と思い込んでいたんです。でも、自分が持っているものをそのまま出すだけでちゃんと作品に生きることもあるんだなって、不思議な体験でした。自分のなかでも好きな作品になっています。
普通、「自分のまま」で映像に映ったものを見ても「ちゃんと作品になってないな」と思っちゃいますもんね。でも、「自分のまま」で作品として成立しているというのは、すごくユニークな経験ですね。白石さんはいかがですか?
さきほどの『シグナル100』という映画で、オカルトマニアの、人とあんまり関わりを持ちたがらない男の子を演じたんです。
劇場で試写会があったときに知ったんですが、自分が登場するシーンで、みんなが「フフッ」と笑ってくれることが多くて。「ちゃんといい味になっているのかな」というのは、すごく自信になりました。
その人が出てくるシーンで、見ている人がちょっと嬉しくなってしまうキャラクターっていますよね。それが「いい味になっている」ということなんですね。
ハタチを迎えたいま、不安とどう向き合う?
テアトルでは、10代で続けていくなかで辞めてしまう人も結構いるかなと思うんです。お二人は、芸能を続けるか悩んだりした時期はありましたか?
僕は全然なかったです。今もなんですけれど、お芝居が楽しくて、楽しいものなので辞める理由がないんです。これからもずっと続けていきたい、という気持ちはすごくありますね。
なるほど、白石さんは入った当初から今までずっとモチベーションを高く維持できてるんですね……! 原さんはいかがですか?
すみません、私はあるんです(笑)。それこそ本当に最近なのですが、高校を卒業して大学に行こうかどうしようという時期が、大きい分岐点だと思うんです。やっぱり大学に行くとなると、そのあとは就職することがほとんどじゃないですか。
でも、自分は高校時点でやりきったのかを自問したときに、これまで支えてくれたマネージャーさん、演技の先生、家族や友達だったりのことが浮かんだりして、「やりきれていないな」と感じたんです。
なるほど、やれるところまでやってみようと。大学で別のことを勉強しつつ、芸能活動を続けてみてもいいわけですもんね。
原さんはいま、大学では映像の勉強をされているとのことですが、監督や演出、撮影などの分野を学んでいるんですか?
そうですね。基本的にカメラの後ろの人たちの仕事をオールマイティーに勉強しています。続けるかどうしようかと迷っていた時期に、「俳優がダメでも映画は好きだから、やっぱり映画が作りたいな」というところで、進路を選んだところがあって。
そうなんですね。「カメラの後ろ側」をやってみて、気付くことはありましたか?
監督だったりカメラを回す側になったときに、カメラの前に立っている人のお芝居のやりやすさや、演出の付け方にそこまで気を配れなくなっていることに気づいたんです。「カメラの後ろ側」にいると、「こういうふうに映したらお客さんが気持ちいいだろうな」ということばかり考えてしまって、役者さんの気持ちにしっかり寄り添えていないな、と。そこはなかなか難しいですね。
将来的には映画制作もやってみたいんですが、自分で役者をやっていることも、カメラを回したり監督をしていることも、お互いに生きていくのだろうなというのは、その時に気付きました。
ディレクター側になって「自分で作ってみる」というのも、できるようになったら面白そうですよね。
一方で白石さんは高校を卒業されて東京に出てきて、そこから役者一本なんですよね。
そうですね、大学も少し考えましたが、そこは変なプライドがあって(笑)。「みんなと一緒になって同じものを学ぶよりも、自分でどんどん探究しよう!」と思ったんです。一匹狼になりたがりで(笑)。高校卒業してから上京して、役者一本でやってみています。
若手役者さんといえば、一般的には夜型で破天荒な生活をしているイメージがあります(笑)。白石さんは、普段はどんな生活をされているんでしょう?
そのイメージに、近いといえば近いです(笑)。今は昼の時間は空けておきたいので、夜勤のバイトをしています。あとは僕も映画が好きなので、映画を見ていろいろ勉強したり、人のお芝居を見に行って、その人が知っているいい役者さんを紹介してもらって、その人のお芝居を見に行ったりですね。
自分でどんどん深めていこう、という感じなんですね。でも、これまた一般的な考え方からすると、将来を考えて不安になったりとかはしないですか?
不安は常に感じていますね……。それこそ「仕事にいつ行けるんだろう?」とか考えたりすることはしょっちゅうです。でも、自分で決めてこの生活をしているので、良いことも悪いことも全部、自分で責任をとろうとは思っています。
……とはいえ、そんなことを言いつつ、実はそこまで切迫している感じでもないんです(笑)。映画や舞台を観たりしていても、人一倍涙もろいという性格からかもしれないですけど、いい意味でいろいろなことを深く考えられたりとかしている時間が楽しいです。
原さんは、将来の不安はあったりしますか?
不安はあるにはあるんですけど、不安を感じたときには、応援してくれてる人の顔を思い出すと「これだけ応援してもらえてるから、ちょっと失敗したって大丈夫っしょ!」と思ってます(笑)。
僕もそこは同じです。上京するときに、みんなから口を揃えて「応援してるよ」と言ってもらえて。自分から「僕には夢があるんだ」と気持ちを伝えた人からは、すごく応援してもらえるんです。だから、「こんなに応援してくれるんだから、頑張らなきゃな」という気持ちです。
なるほど。やっぱり、挑戦していることがはっきりわかるからこそ、周囲から応援してもらえる、というのはあるかもしれないですね。
コロナ、SNS、YouTube――これからの時代に
不安ということで言うと、今はコロナ禍でなかなか自由に動けない時期が続いていると思います。そのなかでお仕事をしていて大変だったことは何かありますか?
自分はひとつ、YouTubeで公開された映画の短編があって、その撮影をする時に学校を借りることになったのですけれど、ロケをさせてくださった学校さんに1日の全ての行動を細かく書いて提出しなきゃいけない、ということがありました。撮影現場は、非常に気にされるところは多いかなと思います。
私は、最初の緊急事態宣言のときにドラマの撮影があって、駅前の細い道で撮っていたんですよね。やっぱり本番のときには通行する方に止まっていただくことがあって、そのときにはピリピリした雰囲気は感じました。
スタッフさんも「何の撮影?」と言われたりしたことがあったらしく、「なぜ今、ドラマの撮影をする必要があるの?」という雰囲気はあったかなと思います。とにかく短い時間でなんとか撮影しないといけないので、役者やスタッフどうしでもピリピリしていました……。
なるほど、なかなか難しいのですね……。何かできるといいのですけれどね。
ちなみに、お二人の周囲の同世代の友人知人たちは、映画やテレビドラマよりもネット番組だったり、SNSやYouTubeなどの新しい場所のコンテンツのほうが好き、という方も多いのではないですか?
そうですね。私自身もけっこう好きですし。
そういった新しい場所と、これまでの映画やドラマなどのコンテンツは、少し分かれ始めているような気もするんです。
今の変化のなかで、お二人は「これから自分はどうしていこうか」と考えたりするのかな、と思ったのですけれど。
「テレビは見てない」という友達は、たしかに多いですね。僕自身も、YouTubeだったり、新しいコンテンツは好きなんです。でも、映画館で見る映画でしか味わえないものもある気がするので、あまり絶望したりということはないかもしれません。そもそも自分が好きでい続ければ、好きな人がゼロになることはないのでは、と思ったりもします(笑)。
私も、あまり変化に悲観的になっているわけではなくて、逆に選択肢が増えたことで、的を絞るというよりも、同時にいろんなところに柔軟に出ていけるようになっていかないといけないのかな、とは思います。
例えば佐藤健さんなんかはYouTubeでも活動されていたりしますよね。逆にNetflixのオリジナルドラマに出ている土屋太鳳さんは朝ドラに出ていたりもしますし。
だから「分かれていく」というよりは、もしかしたら、どんどんマルチになっているのかなと思うんです。そのぶん、今後は役者として身に付けなければいけないスキルが増えるかもしれない。そのときに、臨機応変に対応できる人になりたいなと思っています。
「人を楽しませる」という意味では、もしかしたら本質は同じ、というところはあるのかもしれないですね。
では最後に、これから芸能活動を続けていくうえでチャレンジしていきたいことや、目指していきたい俳優像などを教えてください。
実は、制作側に立って「自分の映画」といえるものを1本は作ってみたいんです。自分が主演でなくてもいいのですが、自分が「この話、面白いな」と思ったものを、「このキャストを入れたらどうかな」「こういう演出どうかな」って、いろいろ試行錯誤してできた作品を作ってみたいですね。やはり映画は娯楽なので、ぼんやりでもいいので、「なんか好きだな」と思ってもらえるものを作ってみたいです。
私はやっぱり朝ドラには出たいですね。それと、こういうご時世というのもあって、そうでなくても苦しい思いをしていたりとか、楽しくないなと思っている方がたくさんいると思うのですけど、そういう人に一日でもいいから、私のお芝居で「生きてるってそんなに捨てたもんじゃないな」と思ってもらえるように、お芝居もそうですし、人柄も備わった俳優さんになりたいです。
お二人とも、ありがとうございました。これからの活躍、楽しみにしています!
というわけで今回は、テアトルアカデミー所属で映画・ドラマなどで活躍中の原舞歌さん、白石拳大さんのお二人に、10代の生活やこれから目指していきたい将来像について伺ってきました。お二人のお話からは、これからを見据えて色々なことを考えながら活動を続けている様子が窺えたのではないかと思います。
さて、この「テアトルロード」では、普段はなかなか知る機会のない「芸能」の世界のことや、「表現力」にまつわるノウハウ、そしてテアトルアカデミーの教育に関する情報を発信しています。よろしければまた見に来ていただければ幸いです!
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(取材・構成:中野慧/撮影:荒川潤)