総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?
そんな疑問にお答えするべく、この「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する一流講師陣の方々をお招きしてお話を伺う、講義連載をやっています。
「ダンス」「演技」「歌唱」「YouTube」など様々な表現ジャンルがありますが、「演技」を担当する畠山真弥先生には、「まず身体から! もっと自分を好きになる体操」と題して、たくさんの役者さんに教えてきた、自分を魅力的に見せるための方法を教えてもらっています。
初回は「滑舌」、第2回は「発声法」、そして第3回・第4回ではは畠山先生が演技の上達のために指導している「こんにゃく体操」の意義について伺ってきました。
【第1回】 滑舌を良くするには「舌」より「顎」が大事? スラスラ話すためのコツと練習法
【第2回】 「日本人は自分の声が嫌い」…自己肯定感を上げる発声練習って?
【第3回】まずは人体の構造を知ろう!自分を好きになるための「こんにゃく体操」ことはじめ
【第4回】緊張せず自然に演技できるようになるために。脳と身体の関係を知って、自分を客観視できるようになろう!
でも、こんにゃく体操って本当に演技に生きるの……? という疑問が(まだまだ)拭えません。なぜ自分の身体と対話することが演技につながるのか、今回はまずそのお話から伺っていきます。
※記事の内容は公開時点のものです
畠山真弥(はたけやま・しんや)
1964年生まれ。俳優。こんにゃく体操講師。
文学座付属演劇研究所入所後、タイムリーオフィスに所属。「仮面ライダークウガ」「徳川慶喜」「タイムスクープハンター」、舞台「冬物語」「リチャード3世」など多数出演。また、「こんにゃく体操」という身体訓練を故宮川睦子氏、故大沢喜代氏に師事し、現在様々なところで指導している。こんにゃく体操教室主宰、桜美林大学非常勤講師。著書:『疲れがスーッと消える!超脱力こんにゃく体操』(講談社)
自分の頭と身体を対話させる
これまで「こんにゃく体操」の成り立ちや効果についてお聞きしてきましたが、この体操をすることによって、演技にどんな効果があるのかを、改めて伺ってもよいでしょうか。
血流が良くなるとか体調面の効果もあるんですが、本質的な部分を語るとすれば、この体操を通じて「自分との対話」ができるということですね。〈自分〉と〈自分の頭〉ではなく、いうなれば〈自分の頭〉と〈身体〉との対話というか。
自分の頭と身体の対話……?
自分の頭と身体のパーツが対話することで仲良くなって、こちらが教えたり、体から教えられたりして、良い関係をつくれるようになると、自分に愛着が湧いてきます。身体を動かしながら自分と対話をすることが、自分を好きになるための第一歩だと思います。
過去の連載でも、自分の個性や癖を通じて自分を好きになるという話がありましたよね。この対話をすることで、演技などの表現にも何か変化があるのでしょうか?
演技とは、自分の中にあるものを身体から出して表現することです。
本を読み、映画を見て、想像して疑似体験をしたこと、あるいは実際に体験したことなどを自分のなかに溜め込んでいって、自分の身体を使って表現する。それは自分を追い込む作業でもあると思うんですけど。
たしかに、自分の中にあるものと対峙することは、とても精神的な負担が大きい気がします。
そうなんですよ。たとえばある役柄を演じるときに、台本に書いてある状況やセリフを自分の中に入れて、自分のなかにあるものと合わせて、何が出てくるのか……。そんな自問自答をして自分を追い込む作業が、役作りには必要です。
その作業をするときに、「自分を愛おしく思っている人」なのか、それとも「自分のことを自分で認めていない人、信じていない人」なのか、その違いで表現の輝きがまったく変わってくるんですね。
やっぱり、自分を愛せている人が自分の中にあるものを出すと、魅力的に見える。
逆に自分を愛せていない人が、自分を追い込んで出してくるものは、見ていて苦しくなってしまうんですよ。
なるほど。
まずそれが、一番本質的な部分ですね。
で、身体と対話できるようになってくると、たとえば「自分の頭とヒジがあまり仲良くないな」と気づいて、「どうして仲良くないんだろう?どうして言うこと聞いてくれないのかな?」と対話を進めていくと、「そういえばあのときにケガをしたよな」といった記憶が蘇ったりします。
そして理解を深めていくと、仮に自分の脚のかたちが好きじゃないとしても、長く付き合うことで、結局だんだん愛情が湧いてくるようになる。理想とは程遠い自分の身体でも、対話を重ねることで愛着を持てるようになる。
その愛着が、演技として自分の内面を身体で表すときに、とても大事なエンジンのようなものになっていきます。
ひとことで「自分を好きになる」と言っても、いろんな「好き」があるわけですね。
自分の欠点をも受け入れるように、じんわりと「愛着」を持つようになるのも、「好き」のひとつだと。
そうそう。そのうちに、他の人の身体と取り替えてって神様に頼まれたとしても嫌だと思うくらい、自分の身体に愛情が湧いてくる。そういう奥底の部分で自分を肯定できる人の表現は、他の人たちが目で追ってしまうような魅力を感じられるんだと思います。これは俳優やタレントに限らず、どんな人でも当てはまることだ、と思いますね。
「筋肉は裏切らない」はウソ!?
ところでNHKの「みんなで筋肉体操」って番組、知ってます? 「筋肉は裏切らない」ってフレーズが有名なんですけど。
はい。「筋肉は裏切らない!」は、SNSとかでも流行っていましたね。
でもね、僕は「筋肉は裏切る」と思っているんです。それも、簡単に裏切ってくる。
ええっ(笑)。どういうことですか?
たとえば昨今、リモートワークが増えたことで肩こりに悩む人が非常に多いと思います。
無意識のうちに肩に力が入ってしまって、首から肩までの僧帽筋(そうぼうきん)という筋肉がぎゅっと固くなっていて、肩の関節も動かしづらくなる。
筋肉によって不具合を起こしているのは、まさしく“筋肉が裏切っている”状態といえますよね。ただ単に筋肉をつければいいわけじゃなくて、うまく使える状態にして、自分の望むパフォーマンスに役立てないと、意味がありません。
たしかに、筋肉は決して裏切らない「聖人」ではなく、ときには悪さをすることもありますね。
そのとおりです。
肩の話を続けると、肩が固くなったらどんどん肩が持ち上がっていって呼吸も浅くなり、イライラしてしまうんです。その状態で誰かと話すと、相手から「なんだよ、その言い方は」と思われて、お互いにイライラが募っていくきます。だから肩は落としたほうがいいですね。
やはり、呼吸と人間の感情は関係が深いのでしょうか。
大きく関係していると思います。
演技をするうえでも、僕は呼吸のことのみを気にしているくらい。「そんな呼吸ではそのセリフはしゃべれないよ」とかね。
ワクワクしているときにのんびりした呼吸のままではワクワクのセリフは言えないだろうし、怒るシーンではその感情に合わせた身体にならないといけなくて、そのためには「この状況ではどんな呼吸をしているんだろう」ということを考えてアプローチをすると、セリフに近づいていけると思います。
嬉しいときには、跳ねるような呼吸だったり。
嬉しいときは「ヒャッハー!」って踊るような呼吸かな。逆に苦々しい気持ちのときは、ぎゅ〜っと雑巾を絞るよう感じで、息がすんなり出ていかないようにしゃべりますかね。
結局のところ、まず大前提としての身体があって、その身体がどんな呼吸をするのかで、相手に与える印象がコントロールできる、と。演技とは呼吸のコントロールでもある……って、合ってますか?
まあ、合ってると思いますね。嬉しいときの身体ってどんな状態だろうと考えると、もし椅子に座っていても重たくはならないだろう、というふうにイメージするわけです。
実際に動作をしなくても、そのときにどんな呼吸をしているのかイメージするだけで、声もうれしいときの声になっていくような気がします。
たとえばお芝居の本番直前、大切なオーディション、怖い演出家の稽古など、緊張してしまう場面ってありますよね。
心の中はドキドキしていても、そうではない自分を演じるように呼吸を整えるなど、気持ちより身体を優先することで、相手に与える印象をコントロールできる……これはいろんなケースで使える考え方だと思いますよ。
『香水』を歌う瑛人の肩の力の抜け具合
では、その呼吸をするうえで重要な、肩を軽くするためには、どんな動きをするのがよいでしょうか?
そこで、やはりこんにゃく体操です。今回は肩をほぐすやり方をやってみましょう。
よろしくお願いします!
こんなふうに腕や肩を上げて落とすことで僧帽筋がひねって伸ばされて、肩こり解消につなげることができます。
テレワークが増えるとパソコンやスマートフォンを見る機会が増えると思うのですが、5〜6キロの重さの頭が前のめりになり、それを筋肉で支えるわけですよね。
同じ姿勢が20分続くだけで、首から肩の筋肉が固くなってしまう。肩の関節も動かしづらくなって、鎖骨の上あたりにも力が入って、周辺も固くなってしまいます。
たった20分で固くなるなら、1日中パソコン仕事をする人たちの肩は悲惨な状態になりそうですね。
そうならないためにも、この運動をしてほしいです。
人間の身体って、肩の関節2つと、足の付根の関節2つが非常に大事なんですが、ここが固くなると身体全体の動きが固くなってしまいます。
で、肩が固くなったらヒジも、足の付け根が固くなるとヒザも……という具合に、柔らかい動きがどんどんできなくなってしまいます。肩や首が固くなると、「呼吸」と「身体」、両方の動きに影響が出てしまうので、気をつけたいところです。
演技だと、どういうことに影響が出るんですか?
たとえば役者が殺陣をするときでも、「日本刀は傘を持つように持ちなさい」と、軽く握ることを指導されるんですね。でも関節が固まっていると刀の動きをうまく調節できなくなってしまいます。
声の出し方でも呼吸と肩の動きは重要で、たとえば紅白歌合戦で『香水』を歌っていた瑛人さんは、マイクを持つ姿勢を見ると全然肩に力が入っていないんです。
なるほど、畠山先生はそういう部分に注目して見てらっしゃるんですね。
人柄も関係あるのかもしれませんが、あの肩の力の抜け具合が、素直に声が出る要因なんだと思います。あのくらい肩の力を抜けると、「胸に響かせる声」が出せるようになるんだろうな、と思いますね。
「胸に響かせる声」は、第2回でも出てきたキーワードですね。肩の力が抜けているかどうかは声の質にかなり関係してきそうです。ちなみに、先生の目からみて「胸に響かせられている」俳優さんって、最近だと誰かいますか?
この前『私をくいとめて』という映画を観ましたが、主演ののんさんは透明感がありつつ、もう全部が響いている感じでしたね。男性なら綾野剛さん。いつも響いていると思います。ほかにも、活躍されている役者さんって、みなさん身体が響いていると思います。
なるほど、「どういう響き方をしているか」に注意しながら、のんさんや綾野さんの出演作を見てみると、参考になりそうですね。畠山先生、今回もありがとうございました!
というわけで今回は、畠山先生に本質的な演技論を伺いつつ、具体的な「肩まわりのほぐし方」についても伺ってきました。肩まわりがほぐれていることによって、演技をする際の声の質も変わってくるんですね。
そして次回は、「腰」「背中」のお話を聞いていきます。人間の身体と演技との関係について、さらに深いところを探っていきますので、お楽しみに!
文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤