【動画あり】「日本人は自分の声が嫌い」…自己肯定感を上げる発声練習って?(講師:畠山真弥先生)

連載コラム

 総合芸能学院テアトルアカデミーに入学したら、どんな講義が受けられるの?

 ……読者の皆様には、そんな疑問をお持ちの方々も多いのではないでしょうか。

 そこで、「テアトルロード」では、テアトルアカデミーが擁する、第一線で活躍する一流講師陣の方々をお招きして、講義の内容の一端が伺えるようなお話を編集部が聞いていく連載をやってみています。

 今回は「演技」の講師をしている畠山真弥先生。文学座出身の正統派の演劇キャリアをお持ちの先生ですが、「こんにゃく体操」なんていう不思議な体操の指導をしていたりもする、とてもユニークなお方です。

 そんな畠山先生には「まず身体から! もっと自分を好きになる体操」と題して、たくさんの役者さんに教えてきた、自分を魅力的に見せるための様々な体操を教えてもらいます。

 第1回は、「滑舌を良くするには?」というテーマでお話を伺いました。

【動画あり】滑舌を良くするには「舌」より「アゴ」が大事? スラスラ話すためのコツと練習法(講師:畠山真弥先生) | テアトルロード

 前回の最後で、「そもそも滑舌は直す必要あるのか、を考えたほうがいい」「滑舌を気にするよりも、自分を好きになることが大事」というお話が飛び出しました。さて今回は、どんなお話になるのでしょうか――?

※記事の内容は公開時点のものです

畠山真弥(はたけやま・しんや)イメージ写真

畠山真弥(はたけやま・しんや)

1964年生まれ。俳優。こんにゃく体操講師。

文学座付属演劇研究所入所後、タイムリーオフィスに所属。「仮面ライダークウガ」「徳川慶喜」「タイムスクープハンター」、舞台「冬物語」「リチャード3世」など多数出演。また、「こんにゃく体操」という身体訓練を故宮川睦子氏、故大沢喜代氏に師事し、現在様々なところで指導している。こんにゃく体操教室主宰、桜美林大学非常勤講師。著書:『疲れがスーッと消える!超脱力こんにゃく体操』(講談社)

マスクをしていてもよく声が通るのはなぜ?

前回の最後は、「滑舌の良さをあまり気にしすぎてもよくない、まずは自分の個性を認めることも大事」というお話でした。そんな超本質的なお話をしていただいた後で恐縮ですが、今回は「発声」について伺えればと思うのですが……(笑)。

うん、発声ですね。ちょっと最近の例を挙げてみると、今はコロナ対策で、レッスンの際にも受講生のみなさんにマスクをしてもらっているんですね。

で、こないだエイジレスのクラス(※40歳以上の大人のコース)で、マスクをしているのに一人だけよく声の通る人がいたんですよ。その人をよく観察してみたら、アゴの骨のあたりからボワーンって声が響いている。なんでだろうと思って聞いてみたら、その人はもともと歌をやっていたらしいんですよ

歌、ですか。

そう、歌。

声楽をやってる人ってね、現場に来るときも「おはよ〜」って、ソフトでしかも大きな声で登場するんですよ。歌を歌うような発声で話すから、声もよく通るし聞こえてくる。それが大事なんだなと思って。

歌を歌うように発声する。な、なるほど……?

歌を歌うような発声」って、もちろんいわゆる腹式呼吸は大事です。でもそれだけじゃなく、ノドの奥の方の空間が広く空いて、ノドからアゴにかけてよく響かせないといけない。声楽をやっている人は、ふだんからアゴのあたりで色んな発声をしているから、筋肉もあるし、アゴが固まらない。

なるほど。

アゴからノドの奥って、ずっと黙ってたりとか、緊張してたり、あとは内面的な話ですけど「心が閉じてる」と、グーっと狭くなって動かなくなっていきますね。そうするともう、口先だけでちょこちょこって話す感じになっちゃう。

声もノドも縮こまっちゃう、という感じですか。

そうですね。僕はよくラジオを聞くんですけど、ラジオのアナウンサーとかパーソナリティの人って2、3時間喋るわけですよね。そうなると、その人の人間性が出ないと面白くない。だからラジオの人たちの喋り方って、事務連絡のような声ではないマイクによく乗る声で、それってアゴのあたりによく響いている声になっていると思うんですね。

事務連絡のときの声と、感情を動かす声はどう違う?

今の話を総合すると、もっと気を大きくして話す、ということで合ってますか……?

うん、お酒を飲んで酔っぱらってると声が大きく響きやすくなりますよね。あれってリラックスしてるからよく響くわけですよ。それと、男性だと特に「胸に響く声」がいいですよね

胸に響く声……。

たとえば、東京の駅のアナウンスなどで「〇〇番線に電車がまいります」って言いますけど、わりと甲高い声ですよね。たしかに事務連絡をするためには少し高めの声でしゃべったほうが、遠くまでクリアに聞こえますからね

なるほど。

でも、事務連絡の声と、演技をする声って違うと思うんですよ

30年ぐらい前、アメリカを4ヶ月くらい旅行したとき、よく夜行バスに乗ったんですよ。で、バスの運転手さんが「Next〜(次はどこどこです)」ってアナウンスするんですが、その声が低くて、すごく安心感を与えてくれる。

アメリカで見たテレビ番組でも、キャスターが「good morning everybody」って、胸に響かせるような声で言っていて、相手に対して威圧するわけでもなく、安心感を与える喋り方をしていたのがとても印象に残っているんです。おそらく、甲高い声でしゃべるよりも、胸に響かせて喋るほうが感情を伝えるには適しているな、って思うんです。

「事務連絡は高い声のほうがいいけど、感情を伝えるには低く胸に響かせる声で」。う〜ん、そんなこと、意識したことがありませんでした。

ふむふむ。胸に響かせる声って、どうやったら出せるんですか?

実際に胸に手を当てて声を出してみてください。「あいうえお」だと「お」が一番響きやすいんですが、「あ」でも響かせるやり方があって、それが「あ」に濁点をつけて「あ゛〜」っていうイメージで声に出してみると確実に胸に響くんですよ。これを身体に記憶させて喋っていくと、声が胸に響いていくようになっていくと思います。

注意点は、いくら胸に響くと言ってもお腹から息を出してないとボソボソした声になってしまうので、しっかりお腹を使ってガーンって響かせること。そうすると、感情が伝わりやすくなりますね。ちょっとやってみましょうか。

はい。では、動画を回させていただきますね!

ありがとうございました!
ちなみにこの発声法は、演技をする際にはどう応用するんですか?

演技の場合は……僕の場合は、劇場が20列目まであるとしたら、1列目の人にはよーく聞こえて、20列目の人には1列目の人ほど聞こえないような発声でいい、と思っているんですよ。

というのも、1列目の人も20列目の人も同じような音量で聞こえてくるっていうのは、演技自体がちょっと嘘っぽくなるなって。20列目の人まで同じような情報伝達をしようとすると、ちょっと高めの発声で喋ることになりますね。

演技というよりは、事務連絡的な声になってしまう、それだと感情が伝わらない、ということなんでしょうか。

そうですね。だから、1列目と20列目の人では聞こえ方に差がある声でいいと思います。もちろん20列目の人にまったく聞こえないような発声では困るけど、胸に響くような発声ができていれば、内容は聞き取れますから。

「自分の声が嫌い」という人が多い!じゃあ、自分の声を好きになるには?

前回、「自分を好きになることが大事」というお話がすごく面白かったです。今回のテーマである「発声」と、「自分を好きになる」ということはつながっている気がするんです。

つながっていると思いますよ。

僕はこれまで発声に興味を持って、ワークショップに出たり、声楽家の方に習ったり、本を読んだり、いろいろ学びました。でもあるとき、声楽を専門的に研究している方の本を読んでいたら、「発声を良くするには発声練習は必要ない」って書いてあったんですよ。「なんだよー!」って思ったんですけど(笑)。

ただその本のなかで唯一、「発声をよくしようと思ったら自分の何気ない日常会話を録音しておいて、聞き返してみる」という方法が紹介されていたんですね。

テープレコーダーで自分の声を聞いてみると、自分のイメージしていた声と全然違ったりするんですよ。だから10人中9人が「ウワーッ!」って言う。「こんなの自分の声じゃない!」「何この声……」って、自分の声の悪口を言ったりとか。

みなさんもぜひ、自分の声をしばらく録音して聞いてみてください。最初は、耳を塞ぎたくなっちゃう人が多いかも……?

たしかに自分も、ライターとしてインタビューの仕事をするときはレコーダーに録音してあとで聞き返す機会が多いです。で、同じ仕事をしている人たちは「自分の声を聞くのはあんまり好きじゃない」って言う人がけっこう多いですね。

ね、そうでしょ。でもね、日本じゃなくてアメリカで「自分の声を聞いてみる」をやると、半数以上の人が「あ、いい声」って言うらしいんですよ

なんと(笑)。

アメリカの人たちだって自分の声を聞いて違和感を感じるのは一緒みたいなんですが、嫌だと思わないらしくて。アメリカ人は自分の事を好きなんだろうなって

僕もね、胸に響かせるような声を出したいなと思っているんだけど、興奮すると少し声が上がっていくんですよね(笑)。「なんだ、なんか甘ったれた声だな」っていつも自分で思っていて、声の音質そのものよりも、声の音質の向こうにある人間性、自分の嫌な部分とかを感じたりしちゃう

でも30分くらい聞いていると、その中でも「今の声は許せるな」とか「ここはいい声して喋ってるじゃん」って思う瞬間が必ずあるんですよ

たしかに、そういう瞬間は見つけようと思えば見つけられそうですね。

その「いい瞬間」をもう一度聞いて、「このときはどんな心持ちで、どんな姿勢で、どんな体の状態、心の状態で発した声なのか」を思い出しみるんです

そうして、「いい声の状態」をいろんな場面でやっていけば、自然と自分の好きな声が多くなっていって、やがて声に対するコンプレックスが無くなっていって、「いい声」になっていく。

発声練習をして「いい声」を目指すよりも、まずは自分の声を聞くこと、が大事なんですね。

そういうことです。声を良くするのは口を使った練習じゃなくて、喋って聞いての耳の練習・耳のトレーニング。そして耳は脳に直結しているので、耳や脳を使ったトレーニングが発声を良くするわけです

今だったらiPhoneの「ボイスメモ」とか、スマホには自分の声を録音できるアプリがたくさんあるので、手軽にできますね。

そう、手軽にできるので、まずはそこからやってみてほしいですね。

やっぱりね、タレントって、自己肯定感を持ってる人じゃないとなかなか見てられないんですよ。自分が嫌いな人の事を、他の人が好きになることって、なかなかないと思うんですね

必ずしも「自分ラブ♥」って感じではなくてもいいんだけれど、自分に興味を持って自分といい付き合いをしていないと、他人に興味を持ってもらえない、というのはあるかな。

実は僕がやっている「こんにゃく体操」って、「他人に興味を持ってもらう自分を作る」というのがコンセプトなんですよ。技術よりも先に、「あぁ、この人は見ていたいな」って思ってもらえるものを、体の中に作りたいな、というのがあって。

「自分ラブ♥」でなくてもいい、自分のことを好きになる。同じことのようで、この2つはちょっとだけ違いそうですね。

やっぱり、「自分と話をする」。

それは、肩とか、骨盤とか、背骨とかにそういう自分の体と対話をするのが大事だなって思っていて。自分は体がかたいと思っていたけど、少しは柔らかくなってきたなとか、そうすると自分との付き合い方もだんだん変わってきて、自分のことを信用できるようになる

そうしたら自分で自分を楽しむことができるようになっていって、そういう人がいろんなセリフを喋ったり、喜怒哀楽を表現すると、輝いて見えるんですね

なるほど、畠山先生の「こんにゃく体操」には、自己肯定感を養う、という意味が込められていたんですね。

自分のことを嫌いな人は、まず自分とコミュニケーションをしていない。自分の声も知らないし、自分の体がどうなっているかも知らない。でも、少しずつ知っていくことで、自分を好きになっていくことができる、というわけなんですね。畠山先生、今回もありがとうございました!

 今回は「発声」をテーマにしましたが、またしても前回同様、「自分で自分を好きになる」という話へとつながっていきました。そして、自分を好きになるには、自分の体と「話す」ことが大事――。

 というわけで次回は、畠山先生の提唱する「こんにゃく体操」、その意義を聞きつつ、実際にやり方を教えてもらおうと思います! ぜひ読者のみなさんも、記事や動画を参考に、実際にやってみてくださいね。それではまた!

文・取材・編集=テアトルロード編集部/撮影=荒川潤