「演じた数だけ、子どもは強くなる」芸能教育が子育てにもたらすメリットとは?教育家・小川大介先生に聞いてみた

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テアトルアカデミーの教育プログラムの開発に携わる教育家・小川大介先生

 テアトルロード編集部では、これまで「子ども×教育」にまつわる記事をいくつか配信してきました。テアトルアカデミーに子どもを通わせているお父さんたちに芸能教育について思っていること聞いたり子育てにおけるスマホとの付き合い方について考えたり……。

 でも、肝心の「子育てそのもの」に親たちがどう向き合えばいいのか、もっと総論的な考え方を知ることができないだろうか――? そんなことを考えていたとき、テアトルアカデミーの教育プログラムの開発に、数々の子育て関連書を執筆している著名な教育家の方が携わっていることを知りました。

 その方とは――KADOKAWAから出版された『「見守る」子育て』シリーズがヒット中の、教育家・小川大介先生です!

小川大介『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA、2019年)。画像はAmazonより。

 小川先生は現在、子育てや教育に関してメディア上で発信している一方で、テアトルアカデミーでは「キッズパフォームチャレンジ」という、演技を取り入れた教育プログラムの開発にも携わっています。

 今回はその小川先生に、これまで培ってきた「教育」に対する考え方について、深堀りして伺っていきたいと思います!

小川大介(おがわ・だいすけ)イメージ写真

小川大介(おがわ・だいすけ)

京都大学在学中より大手塾で活躍後、中学受験プロ個別指導塾を創設。6000回の面談で培った洞察力と的確な助言が評判。受験学習はもとより、幼児期からの子どもの能力の伸ばし方や親子関係の築き方に関するアドバイスに定評があり、各メディアで活躍中。 『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』『子どもを叱りつける親は失格ですか?』(KADOKAWA)、『1日3分!頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)など著書・監修多数。

受験指導のスペシャリストが「このままでは上手くいかない」と気付いた理由

小川先生は今でこそ教育や子育て全般に関してメディアで発言されていますが、もともとは「中学受験のスペシャリスト」だったんですよね。今日はまず、小川先生が中学受験から今のお仕事にシフトしていった理由を伺えればと思います。

わかりました! 少し長くなりますけどお話ししましょう(笑)。話は大学時代まで遡るんですが、最初は弁護士になるつもりで京都大学の法学部に入って、司法試験を目指していたんです。
そのときに塾講師のアルバイトをはじめて、両方やっていくうちに「自分は勉強することは嫌いだけど、教えるのは得意だな」と気づいてしまって(笑)。それからは司法試験の勉強はやめて、大学卒業後もズルズルと塾講師のアルバイトを続けていました。

今や何冊も著書を出している小川先生が、まさかの新卒フリーターだったとは……!

取材を開始していきなり、全国の新卒フリーター/無職の若者に希望を与えそうなエピソードが……!

就職する気もなくプラプラとしていて、どうしようもないやつでしたよ(笑)。そんなタイミングで仲間から「教材開発を一緒にやらないか」と声をかけてもらって、そこには塾の看板講師レベルの優秀なメンバーが集まっていたんです。「じゃあもう、塾つくろうか!」ということで個別指導塾をつくることになり、言い出しっぺだった僕が代表になりました。

就職ではなく起業、というかたちだったんですね。

でも、さっそく一年目で「このままでは上手くいかないな」と思ったんです。塾のトップ講師って、50人の子を「おおっ」と言わせる力はあっても、子どもたち一人ひとりに適切に関わる能力があるわけじゃないんですね。

おお、というと……?

要は、先生って喋るスキルはあるけど、聞くスキルはあまりないんですよ。学校の先生も塾の先生も、色んなことを教えてはくれますけど、生徒の話を最後までちゃんと聞いてくれるイメージはないでしょう?

たしかに、そういうイメージはあまりないかも……。

なので、それからはコーチングの勉強を始めたんです。コーチングって「ああしなさい、こうしなさい」ではなくて、本人たちの奥底にあるものを否定せずに尊重することが大事なんですよ。でも、単純に「うんうん、そうですね」とうなずくだけじゃなくて、子どもや親御さんの話の根っこにあるものを引き出す力が必要だ、と考えたんですね。

そこからは年300~500件くらい、一人当たり30分〜1時間の面談をして、子どもたちの1週間の過ごし方、家庭の様子、学習の状況やつまずいているところを聞いて、どう乗り越えていくのかをコンサルティングしていく、というモデルに変えていきました。

あとで「勉強」を伸ばすためにも、幼少期の関わり方が大事!

子どもに勉強を教えるというと「どうやったらうまく教えられるか」という指導法を勉強したくなりますけど、小川先生はもっと根本のところに立ち返ることが必要だ、と考えたんですね。

そうです。もっともっと本質の部分に行かないといけないな、と。そこでコーチングの次は、脳科学の勉強をはじめました。たとえば「記憶する」という行動ひとつとっても、同じことを習ってすぐできる子と、時間がかかる子がいますが、それは一人ひとりに特徴があるからなんです。そういう子どもの特徴に応じたメソッドを確立させるまで、10年くらいかかりました。

そこからは確立したメソッドをスタッフに共有してそちらに当たってもらい、僕自身は、自分をうまく扱えなかったり、頑張っているはずなのにどうにも勉強の成果が上がらないというお子さんの相談を受けるようになっていったんです。

それは、たとえばどんなお子さんなんですか?

発達障害や、親御さんに虐待傾向があったりとか、不登校、引きこもりなどの問題を抱えているお子さんですね。そこではお子さんの年齢に関係なく必ず2歳、3歳当時からさかのぼって、生まれてからどう育ったのかを聞くようにしていました。そんな経験を積むうちに、しだいにお母さんがどんな人で、職業は何か、お父さんの口癖は何か、ということまで推測できるようになってきたんです。

数千の面談を繰り返すことで、お母さんやお父さんのパーソナリティ、さらには口癖まで推測できるようになった、という小川先生。

もはや占い師のような境地に……!

結局、学習の技術って小学校高学年になってから教えてもすぐ伸ばせるんですが、そもそものやる気だったり、「もっと面白いことをしてみたい!」というワクワク感って、9歳までの育ちの部分の方が圧倒的に大きいんです。僕は受験のことはわかるから、そういったベースの部分から関わることができれば、一本つながる軸をつくれると思ったんです。

スポーツの世界では、「ゴールデンエイジ」という言葉がありますよね。9〜12才(小学3年〜小学6年生)の時期に運動に親しんでおくとあとで伸びやすい、と。勉強で伸びるために大事な時期って何歳ぐらいなんでしょう?

特に3歳~9歳ですね。この期間ってまだ言葉を使いこなせていないから、勉強そのものは身につきにくい期間なんです。ただ、家庭教育や親御さんの関わり方がその後の勉強でも生きてくる。だからここ5年ほどの僕は、そういった部分についての本を書くようになったんです。

毎年、出版社からは中学受験本や国語の本を出してほしいと言われるんですけど、断っていますね。そんなことより、子どもの成長の土台を育むことの方が大事なわけですから。

「体を通じた学び」は最初、理解されなかった

中学受験のスペシャリストだった小川先生が、子育て全体へとシフトしていった理由がよくわかりました! しかし、そこからどうして「演技」に関心を持つようになったのでしょうか?

実は幼いときの学びについて考えていたときから、演技を取り入れたいと思っていたんです。心理学で「人間彫像」というアプローチがあって、要は「上手くいったときの自分を演じると、実際も上手くいく」というものです。勉強においても、「勉強できる自分」を体で演じることで、勉強のストレスを乗り越えられるんじゃないか、と考えたんです。
本当は個別指導でもそういったロールプレイを入れたいなと思ったんですが、当時の塾業界ではまったく理解してもらえなかった(笑)。

周囲からしたら、小川先生が突然「塾のカリキュラムに演技を取り入れたい」と言い始めたら、「殿がご乱心だ!」となってしまいそうです。

いや、ほんとその通りで、「なに言ってるんすか!」で片付けられました。でも、演技をする「なりきり遊び」には、自分の枠を超えられる、成長につながる力があるんです
実はこれ、演劇に関わっている人たちにすらわかってもらえなかったんです。「自分たちはエンタメをやっている」という思い込みがあるので。

「演じるということは、『自分ではない自分』を体感できるってことですからね」と、演劇の可能性の大きさを熱く語る小川先生。

劇作家の平田オリザ(※)さんも小川先生と似たことを言っていたりしますが、まだまだ演劇人のあいだでも「演劇は学びとしてもいいものだ」ということが、なかなか自覚されていないのかもしれません。

海外は日本よりも心理や脳科学の使い方が浸透しているので、学校のカリキュラムに演技が入っていたり、スピーチの振る舞い方なども学ぶのですが、日本ではまだ定着していません。僕も「時代が早かったのか」と、諦めようかと思いましたよ。

※平田オリザ:劇作家、演出家。劇団「青年団」主宰。代表作に『東京ノート』『ソウル市民』三部作など。学識者として政府や地方自治体の文化政策にも携わっている。

「演じた数だけ、子どもは強くなる」そのメカニズムとは?

でも小川先生はそこから、テアトルと組んで演技と教育を組み合わせたプログラムを開発することになったわけですよね。きっかけは何だったんですか?

4年前、たまたま知人とのつながりでテアトルの役員とお話しさせてもらったんです。そのときに「テアトルのポテンシャルをもっと使ったほうがいい」という提案をさせてもらったんですね。役員にお話ししたのは「演技というのは、全身を通したアプローチとしてすごく優れている。ここから子どもの知育に繋がる手法としての演技を広めていきませんか」ということでした。

大事なのは、オーディションをパスする/しない、だけではない。パスしなくても子どもや親御さんが満足できるテアトルにしたら、もっと指導の幅も広がる。僕自身も念願だった「演技を通した子どもの成長」が、テアトルさんと組んだらできるな、と。それで一緒にやることになりました。

そうしてできたのが「キッズパフォームチャレンジ」というプログラムですよね。これは、具体的にはどんな内容なのでしょうか?

Kids Perform Challengeオフィシャルサイト|テアトルアカデミー

基本メニューとして一番最初に作ったのは「親子の自信が育つ特別講座」で、子どもだけでなく親御さんにも受講してもらいます。親御さんには僕が直接、子どもの状態を理解するためのレクチャーとワークをやります。

一方で、お子さんに対しては「決まった演技をやってもらってそれを評価する」という従来のやり方ではなく、その子それぞれの表現を許容した上でフィードバックをする、という時間にしています。
たとえば「プレゼントをもらう」というお題ならば、どんなプレゼントで、どんなふうに喜ぶかは子どもに任せる。テアトルの通常レッスンでも自己表現は重視されていますが、時間制限がある上に決まったカリキュラムを進めないといけないので、そこまで自由にはできなかったんです。

キッズパフォームチャレンジは、普段は演技や歌などを教えているテアトルの講師陣からも「ずっとやりたかった講座です」と言われるのだそう。

子どもが自分で考えて表現する時間をしっかりとることで、自身を理解させてあげるんですね。

自信というのは、自分自身を理解することで初めて身につきますからね。この講座のポイントは、親御さんへのレクチャーを少し早めに終わらせて、お子さんのレッスンの見学をしてもらう、ということです。普段の親御さんってどちらかというと「上手くできているか、できていないか」という目線でレッスンを見ているんですよね。

子どもを「ジャッジ」する目線で見てしまっている、と。

ええ、そうです。でもこの日は、親御さんも僕と一緒に勉強したあとだから、とてもゆったりしているんです。
たとえば、子どもが途中でセリフが止まってしまったとしても、「なんでできなかったの!」と怒るのではなくて、「そういうこともあるよね」と声を掛けられる。
子どもがその様子を見て「あれ? 失敗したのにお母さん、怒ってない?」となり、俄然やる気になるわけです。いつも手を挙げたりしない子が「先生、もう一回!」と言い始めたりする様子を親御さんが見ると、ショックまで受けてしまうんですよ。

おお、ショックまで受けるんですね!?

いかに今までの自分がこの子を枠にはめて縛っていたか、いかにこの子の「らしさ」を見ているつもりで、見ていなかったかが、わかってしまう。いろんなことを感じて、メモを取りながら泣いてる人も出てきちゃったりしますね。

なるほど、たしかに衝撃を受けるかもしれないですね。お子さんが自己表現をしっかりできるようになると、オーディションも通りやすくなるんじゃないですか?

講座では「自分らしく表現していいんだよ」と伝えているだけで、オーディションの対策なんか何もしてないんですよ。
でも、講座参加者は軒並みオーディション突破率が上がっています。全然オーディションをパスできず悩んでいた親子が講座のあとに立て続けにお仕事が決まったり、親御さんも子育てのイライラがなくなったりとか、いろいろなお話を聞きます。

それとキッズパフォームチャレンジにはもうひとつ、親御さん向けに、子どもの脳の成長段階に応じた適切な関わりや見守り方をお伝えするセミナーもやっています。
そもそもテアトルのカリキュラムって別に脳科学をベースにしてないはずなんですが、これまでの試行錯誤もあってか、かなり理に適った設計になっているんです。なので親御さんのみなさんには「テアトルのレッスンのどういうところに教育的な価値があるか」を中心にお伝えしています。

実はこれまで取材をしてきて「テアトルに入った子は、あとで中学受験すると良い成果が出る」なんて話を、しばしば聞くんです。
「演じる力」がある子は、学習面でも伸びやすいんですか?

演じる力というよりも、演技のときに身についた観察力が、学習面の伸びにつながるとは思います。演技の勉強をきちんとやってきた子は、「求められた表現をやってみて、そのあと検証して自分で修正する」という、いわゆる「PDCAサイクル」を回すことが習慣になっています。

すると勉強のときにも「今ここで集中して取り組もう」と思ってやってみて、「ちょっと違うな」というときに「どうしてだろう?」と自分で考えられるんですね。
ついでに補足しておくと、お子さんが勉強で悩んでいるときには親御さんが「どうしたらいいと思う?」と、本人に考えさせるような取り組みをしていくのも、学習面では効果的だと思いますよ。

演技の力が、勉強でも生きる……何となくわかる気がしますが、もう少し具体的に教えていただいてもよいでしょうか。

「キッズパフォームチャレンジ」のキーフレーズとして、「演じた数だけ、子どもは強くなる」って言葉を、みんなで考えたんです。これはなかなかうまく中身を表していると思うんですね。

たとえば、もし先生に質問しにくい子でも、「質問する子」を演じることはできますよね。「さっさと宿題を終わらせちゃう人」を演じる、なんていうのもいいかもしれません。

なるほど、やはり「なりきり」が重要なんですね。「普段の自分とは違う、優等生の自分になる」という。素のままでは「宿題なんてめんどくさい!」という子でも、「今は宿題をさっさとやる子を演じるんだ!」となったら、うっかり宿題をやってしまうのかも……!?

日頃の自分とちょっと違う自分を作ることによって、その子自身の幅も広がるし、いろんなケースでの対応力の予行演習もできます。そうすれば、新しい事柄に対しても、ビクビクせずに一歩を踏み出せるようになりますよ。

踏み出す力って、たしかに座学だけでは身につかないことですよね。

そもそも子どもにとって「習い事」って必要なの?

お話を伺っていると、「テアトルに子どもを通わせる」というのは、習い事のひとつではあるけども、演劇力だけではなく発想力や自己肯定感まで、かなり幅広いことが身につくのかな、と感じました。
ただ、そもそも習い事っていいことばかりじゃないと思うんです。子どもは放課後に忙しくなるし、親は費用の工面が大変だったり……。

「習い事」というのは何をするかじゃなくて、どう使うかが大事です。たとえば習い事を「特定のスキルを身につけさせるもの」と考えてしまうと、子どもの成長上はもったいないことが多いですね。

おお、それはどういうことなんでしょう!?

たとえばピアノだったら「来月までにこの曲をとにかく弾けるようになりなさい」と、そういう考え方で子どもに関わって、「形だけやれた」ということを強要してしまったりしますよね。「できてるか/できてないか」という関わり方での習い事は、かなりの確率で子ども自身が嫌になるし、自尊感情が落ちるので、残念なことになりやすいです。

先ほどの、「ジャッジの目線」になってしまうんですね。

そうですね。それと、「やっておかないと他の子に差をつけられそう」という不安感で子どもにやらせるのも、あまりよくないです。

最近の習い事界では英語やプログラミングが流行しているそうですが、その流行も「やっておかないと差がつきそう」という不安感に駆動されている部分はあるのかもしれません。

僕は、習い事自体はやってもやらなくてもどちらでもいいと思っています。やらなくても、公園や家の遊びのなかで子どもの世界は広がりますから。
でも、「家にいるときは一人でテレビを見てます」というおうちであれば、子どもに外の世界と触れさせてあげる意義はあるでしょうね。

そして、せっかく習い事をやるのであれば、子ども本人が面白いと思えたり、逆に苦手なことがわかったり、「なんでかな」って考えさせられたり……本人自身の心の動きを受け止められる環境にしていくことも大事にしたいですね。

なるほど。「外の世界」というのはいいですね。

僕は、子どもの成長は家庭教育と学校教育と地域教育、この3つの軸の中で育まれると考えているんです。
家庭教育は、親御さんが家庭で子どもにしてあげること。学校教育は校風などの学校環境。そして、もうひとつの地域教育というのは、たとえば「公園で友だち同士で遊ぶ」といった、家庭でも学校でもない居場所や関係性のことです。習い事は、この地域教育に入るわけです。「習い事はスキルを手に入れるものだ」という発想だと、地域の観点が抜けて単なるトレーニングになってしまう。これはすごくもったいないことですよね。

たしかに、そう考えると習い事の意義のようなものが見えてきますね。ちなみに先ほど学校教育のお話が出ましたが、小川先生には「学校教育はもっとこうしたほうがいい」というお考えって、あったりしますか?

最優先事項はひとつで、「先生たちの話を聞いてあげて」ということです。先生というのは、どうしても追い込まれやすいポジションです。だから余計な仕事は減らしてあげて、先生の思いとか、困ってることをちゃんと聞いてくれる人がいてくれたらな、と思います。自分を受け止めてもらえた人は、子どもを受け止められるようになるんです。

そもそも、子どもを見守れる親になる一番の近道は、お母さんが自分の話を丁寧に聞いてもらえる場を作ることです。ですので、それを作ってあげられる先生や学校の側が、心からの余裕を持てるようになるといいな、と思います。

「子どもに関わる大人たちの笑顔が増えたら、間違いなく子どもは伸びるんですよ」と語る小川先生。

これから目指すのは、誰もが誰もを見守れる世界

最近の先生の著書のタイトル(『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て』)もそうなのですが、「見守り方」というのはキーワードですよね。やはりまだ世間では「見守り方」が、あまり確立されていないのでしょうか?

「見守る」という言葉は、「親は本音を言わず、子どもを好きにさせる」くらいの意味合いで使っている人がまだ多いと思います。
ですが、見守れている状態をつくるための、親として知っておいてほしいことがあるんですよね。僕はテアトルさんで2歳~3歳の小さなお子さんをもつ親御さんのみなさんとお話ししたことで、「見守る」こと、特に「認める」ことの難しさがあると感じました。

そのための使いやすい表現や例えを、『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA、2019年)と、『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA、2021年)の2冊にまとめています。

小川大介『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て』KADOKAWA、2021年。画像はAmazonより。

挙げていただいた2冊は、子育てに関わっていなくても誰かの成長を見守ったり、人間関係を作っていく上でとても勉強になる本だと思いました。たとえば、子どもができなかったときに「なんでできないの?」と言うのではなく、できたときに「今日はなんでできたの?」と聞く、ですとか……。
でも、同時にこの「見守る」ノウハウって、まだまだ親御さんたちのなかでは重要だとは気付かれてないのかなと思いました。普通の人なら「子どものほうを変えなきゃ」って考えてしまうのかなと。

結局は、親の知識はとても大事です。でも、親には「学ぶ」という観点がなかなかない。本当は親が親として成長していく方が大事なんですよ。子どもはその子の自然な成長のなかで自分で学びますけど、大人の方は「学ぼう」という意識をもってはじめて学べるようになりますから。

ただ、「親の学び」といえば約10年前には「親学」を推進しようという動きが政治の世界でもありましたよね。発達障害や自閉症に関する記述が非科学的だということで批判を浴びていましたが、それと小川先生の考え方は、どういうふうに違うのでしょうか?

あのとき根拠となっていたのはアメリカの親学なのですが、それって「ダメ出し」が多いんですよね。ダメ出しの世界の方が型が決まっているから「○○方式」ってネーミングできたりして、わかりやすい。
でも僕がいま伝えているのは、ダメ出しではなく、「子どもの持ち味をどう発揮させるか」という見方です。親としての「正解/間違い」を指摘するのではなく、「これならできそう」と親としての可能性も見つけていく視点ですね。キッズパフォームチャレンジなども通じて、成果を挙げた事例を増やしながら、そういう「ものの見方」を知ってくれる人が増えたらいいな、と思います。

今年から「見守る子育て研究所」というオンラインサロンを開いて、徐々にコミュニティとして育てていこうとしています。そこでは上から指導するのではなく、お互いを否定せず、なにかヒントになるようなものを持ち寄る、という文化を広げています。「孤育て(=親が孤独に子育てをすること)」にならずに済む、仲間と過ごす安心の場になればいいし、「見守る子育て」を周囲の人にもどんどん広げてほしいなと思っています。テアトルの講師や社員のみなさんのなかからも、メンター的な人が育って欲しいですね。

なるほど、「見守る」方法をいろんな人が身につけていけば、子どもだけでなく社会全体がゆっくりと変わっていきそうですね。

親の目線とは違った視点での「わが子の様子」を知ってみよう!

最後に伺いたいのですが、小川先生から見て、テアトルにお子さんを通わせている保護者の皆さんに知っておいてほしいことって、何かあったりしますか?

演技を通した学びは、演技力だけでなく「それぞれの個性の違い」を理解できるものです。だからこそ「上手く演じられたかどうか」だけではなく、その奥にある子どもの心の変化や発見を見てあげてほしいですね。親御さんの見守り方が変わると、お子さんがここで過ごす時間の価値が2倍、3倍に膨らむと思いますので。いい時間にしてほしいなと思います。

ひとつすごく具体的にアドバイスするなら、演技の先生に直接、お子さんの様子を聞いてみるといいと思います。演技の先生たちは、子どもたちの成長や心の動きを、どう表現として引き出すかにずっと取り組んできた先生たちばかりですからね。親の目線とは違う視点でのわが子を、再発見できると思いますよ。
コツとしては、「最近うちの子どうですか?」「先生から見てうちの子の最近の変化って何かありますかね?」というような質問を、先生にしてみるのがいいと思います。

なるほど。さっそく実践できそうなアドバイスまで……。小川先生、今日は貴重なお話、ありがとうございました!

テアトルアカデミーの教育プログラムの開発に携わる教育家・小川大介先生

 というわけで今回は、テアトルの教育プログラムの開発にも携わっている小川大介先生に、「見守る」子育てのエッセンスや、芸能教育の意義について聞いてきました。実は子育てに限らず、教育全般やマネージメント、夫婦や友人関係などの人間関係全体にも言えることも多いかもしれません。

 ぜひ小川先生の著書や、「キッズパフォームチャレンジ」に触れることを通じて、「見守る」子育てのエッセンスに接してみていただければと思います。それではまた!

▼これまでにテアトルロードで配信した子育てに関する記事はこちらです。よかったら、覗いてみてください!

(聞き手:中野慧/構成・編集=テアトルロード編集部/撮影=中田智章)