2018年7月からスタートした幼児番組「パニパニパイナ!(以下、パニパニ)」が、今年7月にシーズン3を迎えようとしています。コロナ禍の状況ながらじわじわと人気を広げ、現在はAmazonプライムで全話が配信されるなど、非常に好調な状況です。
実はこの番組、テアトルアカデミー(以下、テアトル)が大きく出演協力をしていて、出演しているタレントもテアトルの在籍生たちです。テアトルロードでもすでに何度か名前が上がってきたので、ご存じの方も増えてきたでしょうか。
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さて、今回はそんな「パニパニ」の制作を行うプランナーズ21SYJ社の、後藤嘉文氏への取材です。実はこの会社、NHKの番組制作出身者OBで作られた会社で、NHKや民放などで子ども番組に携わっていたスタッフが「パニパニ」を制作しています。
後藤さんには、「パニパニ」という幼児番組を立ち上げた背景に、どんな想いがあったのかを聞きました。なかなか表に出ない、幼児番組の不思議な世界――ぜひ読んでください!
※記事の内容は公開時点のものです
後藤嘉文(ごとう・よしふみ)
「天才てれびくん」「週刊こどもニュース」「ソリトン」(NHK)、「Happy Happy」(BS日テレ)などの幼児から青少年向け番組などの制作に携わる。
「パニパニパイナ!」は既存のメディアの型で作っていない
「パニパニパイナ!」(以下、「パニパニ」)の放映が始まり、2年以上が経ちました。後藤さんとしては、どんな手応えを感じていますか。
「おかあさんといっしょ」七代目うたのお兄さんの、坂田おさむさんと2019年8月に「パニパニパイナ!ステージショー」をやったんですよ。大変に盛り上がったのですが、そのときに「『おかあさんといっしょ』と違いますね」と彼に仰っていただいたんですね。
というのも、演者のいるステージと客席に距離がなくて、アットホームなステージになっている、と。番組と、出演している人、見る人との距離の近さが他の幼児番組との大きな違いなんじゃないかと思います。
わかります。そういう部分は、やはり狙って作られてきたのでしょうか?
そうですね。そもそも、この番組を制作している「プランナーズ21SYJ」という会社は、過去にNHKで番組を作っていたベテランたちが立ち上げた会社なんです。
NHKの中には幼児向けの番組を作っているセクションがあって、そこでは“幼児三番組”なんて言われる「いないいないばあっ!(以下、いなばあ)」「おかあさんといっしょ」「みいつけた!」や、「天才てれびくん(以下、天てれ)」「週刊こどもニュース」なんかを制作しているんです。
そこで僕は、中村哲志さんという自分の“師匠”のような人と一緒に、「天てれ」や「週刊こどもニュース」のような番組の企画や制作に携わってきました。この「パニパニ」は、そのスタッフたちが「やり残したこと」をやろうという気持ちで制作しています。
だから、既存のメディアの型で番組は作っていません。かなり挑戦的な作りだと思いますよ。
実績のあるスタッフたちで作られているんですね。ちなみに、それこそ「おかあさんといっしょ」と比較すると、どういう部分に違いがあるんですか?
とにかく保護者も含めて、「多くの人に参加してもらっている」ことでしょう。
例えば、「おかあさんといっしょ」の出演者って、どのくらいの倍率で選ばれると思いますか? それこそ、実は何十万通という応募はがきから選ばれてるんです。
そんな何十万分の一くらいの選ばれた人だけが、テレビに出演できて、その「寡占」された立場への憧れが原動力になっている。これが、そもそもテレビというメディアの本質なんです。
それに対して、この「パニパニ」はまずは有料チャンネルから始めて、「なるべく色々な人の想いを届けたい」という気持ちで、番組を運営してきました。
もちろん、僕らも選んではいるんですよ。テアトルアカデミー(以下、テアトル)さんにご協力いただいて、小学生以上のサブキャストも年間800人くらいを全国でオーディションして、すべて僕と演出の清水厚さんの二人で見ています。赤ちゃんも年間2000人くらい出演しますがそれもすべてのお子さんを見ています。プロデューサーや監督が一次オーディションからすべての子どもを見るなんて他ではありえないことですが、手を抜かずにすべての人を見ます。
かなりの労力をかけているわけですね。
それだけの人が集まるのは、テアトルさんのご協力のおかげです。最近はテアトルさんの協力で7つのエリアをつないで、全国オーディションをYouTube Liveで配信していたりもして、本当に感謝しています。
もともと、才能を発見する場として、若いタレントの登竜門のようになってほしい気持ちがあったんです。
実際に3年経って、「監察医 朝顔」に出演している加藤柚凪ちゃんをはじめ、多くの子どもたちが、大きな仕事をするようになっていますよね。これからどんどんそんな子役たちが出てくることを期待しています。
そうして最近は、Amazonプライムでの配信も決まりましたよね。どんどん視聴する人が増えているんじゃないかと思います。
サブスクでの配信は、お母さんたちの反応が大変に良くて、そこに驚きましたね。正直なところ、スカパーでの放送よりも反応が良いです。ついにメディア環境が大きく変化しはじめたのを感じます。
先程話したようなテレビの「寡占」の構造が崩れていく中で、「パニパニパイナ!」のような民間制作の役割があると思うんです。実際、こういうコロナの状況でも、色々なお声がけはいただいています。
「パニパニ」は「天てれ」「いなばあ」の延長線上にある
非常に好調な状況のようですね。今日はそんな「パニパニ」が、どういう経緯で生まれたのかを聞いてみたいんです。少子化が叫ばれている今の時代に、なぜ幼児番組を始めたのかなど、制作会社の人に聞いてみたいことが色々とありまして。
それについては、まずは弊社顧問の、中村哲志という人間について語ったほうがいいですね。
「パニパニ」は、Eテレで「天才てれびくん」、「いなばぁ」、「にほんごであそぼ」など幼児番組ゾーンで数々のヒット番組を開発してきた中村さんと立ち上げ当初から話し合って、いままでの番組でやり残したことを実現しよう……という思いから始まっているんです。
……「天てれ」で、「てっちゃん」というCGキャラがいたのは覚えていますか?
あ! いましたね。すぐ煙が吹き出して、怒るキャラですよね。
あれのモデルが、中村哲志さんなんです(笑)。
彼は団塊の世代で――NHKで本当に多くの幼児番組を手掛けてきた、まさに幼児番組のヒットメーカーです。それこそ「ひとりでできるもん!」なんかも、彼が立ち上げた番組です。
聞いていると、我々が子ども時代から観てきたNHK番組の立ち上げをしてきた、相当な偉人ですね。
中村さんの発想の根底に「子どもを信じる」という思いがあります。それは「やっぱり、子どもそれ自体が面白い」ということなんです。
彼の番組では「天てれ」も、子どもを面白がる番組ですね。僕も企画から携わった番組ですが……あれは「子どもを主役にして、バラエティ番組を作ろう」というコンセプトでした。
とにかく、ものすごく主体性のある個性豊かな子どもを選んできて、「てれび戦士」なんて名前を与える。そして彼らが自発的に出してくる企画に、CGの背景もきちんと仕上げて、とにかく彼ら自身を面白がろうとしたわけです。
確かに、NHKにしては、だいぶ攻めた感じの発言をする子どもが多かったですね。
当時は、言葉遣いなんかへの苦情が来たりもしましたけどね(笑)。
パニパニは、「おかあさんといっしょ」みたいに毎週違う子どもたちに出演してもらいたかったんです。ただそれは、レギュラー番組を現実に回していく上では、どうにも難しいことです。
でも「パニパニ」では、下は1歳半~上は中学生くらいまで、新しい子どもたち、才能にどんどん出演してもらいたいと考えています。普通の幼児番組とは違い「教育的」な視点よりも、子どもたち自身の才能を面白がることに主眼を置いています。
そういうコンセプトを構想していたときに、テアトルアカデミーとの出会いがあったわけですね。
まさに、ちょうど良いときに巡り会うことができて、キャスティングをテアトルさんにお任せできた。そのことで、一気に可能性が広がっていきました。
中村さんと最初にこの番組を考えたとき、とにかく徹底的にオーディションをやろうと話したんです。赤ん坊から中学1年生まで、全員オーディションをする。
ただし、少数の人間を選び抜くよりは、とにかく多くの子どもを番組に出して、その中から才能が飛び出してくる。そういう構造を作りたかったところに、テアトルさんがピタリとハマったんですね。
具体的に、テアトルとの協業体制で助かっているのは、どういう部分ですか?
やはり、教育の体制ですね。
普通の視聴者参加番組では、大人が伝えた内容をその場で理解できる年齢に達した子どもでないと、出演させることが難しいのです。ところがテアトルさんは、よく教育が行き届いた幼児が多く、そうなると番組制作としてもチャレンジができるんです。
例えばテアトルさんには、赤ちゃんを扱うスペシャリストの方がいます。僕らは、その人に体操や手遊び歌をオーダーするだけで、もう番組が成立してしまう。
全国をめぐりながら、番組をまとめ撮りして1日に200人くらいをお子さんを出演させているんですが、それでも安心して制作できる理由はここにあります。
僕たちが通常子ども番組を作るとき一番大変なのは、子役の教育です。普通はその子の才能を引き出すのに、番組内で1年くらいかけて子役を育てていきます。その時間を、テアトルさんに与えていただいています。
この体制だからできるチャレンジの具体的な形とは、どういうものですか?
例えば、他の幼児番組にはない要素として、4,5歳の子どもと着ぐるみが同じ画面でお芝居している番組はいま日本にはないですよね。
確かに、「つくってあそぼ」のワクワクさんとゴロリのように、大人が着ぐるみと一緒にいる番組は沢山ありますが、幼児番組ではあまり観たことがなかったですね。
一人どころかたくさんの子どもと着ぐるみが共存している番組なんて、「パニパニ」だけですよ。
だって、そんなの普通は不可能なんです。
そもそも幼児をどんどん出せる環境があって、さらに子どもと着ぐるみが共存しうるビジュアルを考えられて、そして何よりも中の人がいると幼児にバレないよう細心のレギュレーションも組む必要がある。そんな条件はなかなか満たせません。
しかも、ウチの場合はその場に来てもらって、いきなり1日200人を収録しているわけで、かなりチャレンジングな制作体制を組んでいます。
そのあたりが、まさにテアトルへの信頼感で成り立っているわけですね。
すごく印象的だった思い出があるんです――2年くらい前に、0号というパイロット版の番組を制作したときのことですね。
当時なんて、まだ番組が僕たちの構想通り成り立つのかもわからない時期で、ともかく40人くらいの子どもの出演者で制作してみたんです。そうして撮影が終わって、出演者と保護者の方に挨拶に行って、「どうもありがとうございました。さようなら」と言ったら、もう全員が帰りに手を振ってきた。子どもたちと保護者の方たち、全員がですよ。
そのときに――この人たちの熱い想いが番組のエンジンになる光景が見えたんですね。
こんなこと、子どもを日々出演させるだけの、普通のレギュラー番組では感じられないですよ。この人たちの気持ちをどこに向ければ、面白い番組になるのか……それを強く考えていくようになりました。
幼児番組ならではの制作ノウハウとは?
それにしても、お話をお伺いしていると、幼児番組の経験が本当に豊富なんですね。
実際、「パニパニ」は、幼児番組の伝統を汲んでいると思います。
そもそも幼児番組は、NHKの制作が9割です。そして、母数の多い団塊ジュニアに向けて番組制作してきた「団塊の世代」が、もうノウハウの塊。
「パニパニ」は、その中核にいた中村哲志さんら、スタッフのやり方をきちんと継承しているんですね。
なかなかイメージがつかないのですが……やはり独自のノウハウがあるんでしょうか。
例えば、最近テレ東で「シナぷしゅ」が始まりましたが、東京大学の児童心理学研究室がブレーンになっていると思います。「いなばぁ」でも、そういったアプローチがあり、「トマトちゃん」というアニメがありますが、実は赤ちゃんには、概念としての数はないんだけど、目の前のものを数えることはできるんですよ。
なるほど?
つまり、抽象化された数字として「1、2、3……」と数える能力はないけど、「目の前に物体が2個ある」ことなんかは認識できているわけですね。
そこで、鍋の中にトマトが2個入ったのに、出てくるトマトが1個だったりするというアニメをやる。そうすると、本当に2歳児の子どもが「あれ?」と、目が釘付けになるんですね。
なるほど! 面白いですね。あのシンプルな企画に、そんな背景があるんですね。
でも実は、そういう企画こそ予算が非常にかかる(笑)。さらに「教育」という名目があって、初めて成り立つものです。
ただ、「パニパニ」の場合、そもそも僕らは今の「子どもたち自身」の面白さを、もっと素直に出していきたいわけです。教育というより、エンターテイメントショウに近いですね。
とはいえ、そういう幼児番組ならではのノウハウは、「パニパニ」にも入っているわけですよね。例えば、ストーリー作りなんかは、どうですか。気にしているポイントはありますか?
例えば、ストーリーの中にエコや環境問題のようなSDGs的なテーマは入れていますね。
ただ、別に番組を観るだけで、一人で2歳児が理解してもらえるようにはしていないですね。
それは、なぜでしょうか?
大事なのは、それが日常生活において、親子でコミュニケーションしやすいテーマであることなんです。環境問題は、生活の中で身近な問題ですからね。
子どもが何かわからないことがあったときに、親が「ほら、ヤーだんも、ああ言っていたでしょ?」と説明してあげるイメージです。そういう意味では、トイレでの振る舞いのような「しつけ」なんかも、テーマにすることがあります。
こういう部分は、たしかに幼児番組が培ってきたノウハウと言えると思いますね。
テーマは親がわかるように作ればいい、と。すごく面白い視点なのですが、逆に子どものほうは、わからないストーリーを見続けるのは大変ではないですか?
子どもの興味を引きつける工夫はしています。
まず一つは、自分たちと似たような子どもたちが登場していることですね。自分と同年代の子どもが出ていると、子どもは興味を惹かれます。
そしてもう一つ大事なのが……「憧れの対象」が出演していることなんですよ。自分より2歳か3歳上の――男であれば王子様、女であればお姫様のような存在――が出ているのは、やはり大事だと思います。特に歌うシーンで、ヒラヒラしたドレスなんかを着ていると、女の子には強い憧れの対象になりますね。
だって、音楽シーンなんて背後から撮影していて顔も映していないのに、撮影が終わると子どもたちが大興奮で、華やかな衣装を着たお姫様役のところに走っていくんです。素朴に2歳や3歳の子どもは、ああいう可愛い存在になりたいんでしょうね。
面白いですね。今って思春期になった女の子が、必ずしも女子らしい格好を好むわけではない時代だと思うんですが、やっぱりその年齢の子どもは本能的に好きなんですね。
しかも、こういう「憧れ」から、子どもたちの中で芸の「目標」が生まれるんです。
例えば一昨年のオーディションで、3歳の頃に出演した子どもが、少し年上のダンスチームに応募してきたんです。小さい頃に出演した体験で、ダンスに憧れを抱いてくれていたわけです。
そんなふうに、番組内で「次の目標」がどんどん登場してくるのは、本当に嬉しいですよ。ぜひ何度でも出演してほしいですね。
「パニパニ」オーディションで重視する3つの基準
そういう意味では、幼児番組を長年やってきた観点で、オーディションでの審査も行っているわけですよね。その際に重視しているポイントはありますか?
特に「パニパニ」でいうと、「伸びそう」な人を選ぶようにしていますね。僕たちなりに、大きく「三つの基準」があるんですよ。
まず一つ目が「コミュニケーション能力」、二つ目が「身体能力の高さ」、そして三つ目が「リズム感」。やっぱりこの三つが揃っている子どもは、表現者として伸びる素地があります。
赤ちゃんでも、実はそこは変わらないですね。小学生になると、読解力や歌唱力などの要素が出てくると思いますが、こと0~3歳児くらいまでは、この三つが決め手でしょう。
そういう要素って、どういうふうに選考するのでしょうか?
例えば、今ならZoomで複数人の赤ちゃんを一斉に審査をするのですが、番組の映像と音楽を流して、それに合わせてもらうんですよ。もうね、赤ちゃんごとの違いは明白です。
結局、コミュニケーションの本質は、言葉を発することじゃないんです。たとえ言葉をまだ覚えていなくても、子どもの頭の中では言葉がぐるぐる回ってるんです。
だから家庭内で子どもとコミュニケーションを多く取っていると、親に「止まって」と言われたら、子どもはすぐに動作が止まったりする。そういう家では自然に子どもの脳内のボキャブラリーも増えているんで、現場でもすぐに大人の言うことがわかる。だから、子どもが不安にはならない。オーディションでの採用確率は高いですね。
聞くかぎりでは、付け焼き刃の対策では、オーディションは難しそうですね
色々な人から、「どうすれば合格しますか?」と聞かれるんですが、いまの三要素は芸能活動で、非常に重要な要素だと思ってますね。
なぜかというと――表現とは「エネルギーの熱さ」だからです。
熱いエネルギーを発散するための土台として、身体能力が大事な基礎になる。そして発信するにはコミュニケーション能力が必要になる。そのときの表現力の基礎は、今度はリズム感や音感になる。
ただ、今のお話は、あくまでも才能の原石の見つけ方で、次に実際に才能を発揮してもらう必要があると思うんです。
やはり番組に、実際に出演してもらうのが一番ですね。番組に出ると、子どもは一瞬にして変わるんです――それは「自覚」が生まれるからでしょうね。
もう2回目にオーディションに来ると、全然違います、しっかりしてきます。挨拶から変わります。それは2歳児にだって起きることです。
僕たちがテアトルさんにできている「恩返し」は、まさにそのチャンスを増やせていることだと思います。番組で選んだ子が次に大きな仕事に決まっていると聞いていて……芸能界のスタートを切ってもらう手助けになっているのかなと思います。
それにしても、やっぱり子どもでも「自覚」を持つと変わるのは、面白いですね。
自分に対して、「自信」を持つんですよね。
自信もないのに自分を堂々と語れる人なんていないわけで、自信は明らかに表現力に繋がっています。
自分は、舞台の上でこれだけのことをやったんだという自覚が、その子どもの前に立ちふさがっていた壁を突破してくれるんです。
ただ、その話の裏を返すと――子どもの主体性は、周囲の大人たちが作っていくという話でもあります。テアトルアカデミーのような養成所は、そのとても良い土台になっているのではないでしょうか。
幼児番組にこそクリエイティビティが求められる
幼児番組について、こんなに色々と聞いたのは初めてです(笑)。
今や幼児番組は「ポンキッキーズ」も終わってしまったし、NHK以外ではベネッセの「しまじろう」に、やっと「シナぷしゅ」がスタートするくらいでしょう。そもそも、ほとんどの幼児番組は、やはりNHKが作ってきた歴史になりますからね。
そのことは今日の取材で、強く感じました。日本が最も繁栄していた時代に、最も子どもが多かった団塊ジュニアに向けて制作してきた人たちならでは、の話だと思いました。ちなみに、テレビマンとしては幼児番組の醍醐味って、どういうところにあるんですか?
たぶん多くの人は、「幼児番組なんて同じ内容を繰り返していて、クリエイティビティも何もない」くらいに思っている、と思うんです。
でも、NHKで言えば、あの会社が「生涯学習」や「報道」など様々にセクションが細分化している中で、青少年・幼児の番組班だけは“何でもアリ“ですからね。
僕の関わった番組にしても、「天てれ」のようなバラエティもあれば、「週刊こどもニュース」のような報道番組もある。しかも、こどもニュースなんて、大人たちのキワドイ世界を、子どもを用いた切り口から鮮やかに切り取って報道できてしまう。子どもという「切り口」は、実に魅力的ですよね。
「天てれ」なんて、番組内でアニメもやってましたよね。
僕や中村哲志さんが関わっていた初期について言えば、かなり自由に制作できていましたから。
アニメについても中村哲志さんが、「少年ドラマ」の仕事をやっていて、物語に興味があったことから始まっています。そこで子どもに向けて、アニメを作る話になったんです。
でも、もっと遡れば、NHKの子ども向けのセクションには「未来少年コナン」や「マルコ・ポーロの冒険」のような作品を放映してきた歴史もあるわけですから、実はアニメをやる土壌も十分にあるんですよ。
幼児番組って少子化の中で衰退しているイメージがありますが、本当は大きな可能性を秘めたジャンルなんですね。
マーケティング面では最近ずっと、幼児番組は肩身が狭くなりがちだったんですが、ここに来てファミリー層をきちんと取っていくことの重要性が叫ばれてるんです。
でも残念ながら、この制作ノウハウは今や「団塊の世代」の退場とともに消えつつある。その意味で、NHKで培ったノウハウのエッセンスをちゃんと受け継いで、たくさんの子どもたちが才能を花開かせられる番組をこうして放映できているのは、大変に良かったですよ。
「パニパニ」でテレビマンとして挑戦したいこと
そろそろ時間になりました。今年の7月に「パニパニ」はシーズン3が始まるとのことですが……今後の展望について教えていただけますか?
現場の制作では、ストーリーの掘り下げをやりたいです。ヤーだんというキャラクターや世界設定を、もっと整理して再構築したいんです。そうすると出演する子どもとの関係性も、また一段と変わる気がするんですね。
あと、あえてきちんと動ける子どもを入れるのも、やってみたいです。
それは、どういう理由ですか?
子どもを見ていると……きちんと動ける子がいると、周囲の子どもの動きも変わるんですね。
やっぱり控室では走り回っていた子が、番組本番では縮こまってしまうことはあるんです。そのとき、あえて動ける子がいると、そんな子もきちんと動きだすんです。ちょっと具体的ですが、こういう試行錯誤は続けてますね。
あとは、もっと「天てれ」のような自由度も入れてみたいですね。今は、まず完璧に振付ができる子どもを選んでいるけど、もう少しエンターテイメント性を高めていきたいんです。
僕たちは演じる人も、モノづくりをする人であってほしいんです。独善的に子どもを制御するんじゃなくて、子どもの能力を信じることでクリエイティビティを発揮させる。その環境づくりが大人の仕事だし、その体験が大人になっても彼らの中に残ることが大事だと思うんです。
だから目指すところは、番組スタート時の想いに返ります――「面白い子どもを見つけること」です。結局、僕らは子どもたちの才能と出会えるのが楽しいからやっている。なにせ子どもたちは、大人と違って裏表なく誠実に物事に向かい合うので、僕たちも誠実に取り組まなきゃいけないし、ついつい熱が入ってしまう。でも幼児番組がうまくいく鍵は、実はそこにあると思いますよ。
お聞きしていると、「パニパニ」は作り手として非常に楽しい状態にあるようですね。
どんどん小回りの利くかたちで、面白いことを試せていますからね。
最初は、テアトルアカデミーの在籍生の95%がこの番組を知っていたら、「成功」だと話していました。
でも、今はそうじゃないですよ。Amazonプライムビデオなどにも展開して、ここからどんどん新しい配信先を増やしていくつもりです。これからも、どんどん新しい展開をしていくので、ぜひ期待していてください。